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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)139号 判決

原告 川島威 ほか七名

被告 国 ほか五名

代理人 長島裕 橘田博 ほか一二名

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告国及び被告人事院を除くその余の被告らが原告らに対してした別紙処分一覧表記載の各懲戒処分を取り消す。

2  被告人事院が原告川島威、同泉部芳徳、同木地孝之、同福安与志男及び同細貝重喜に対して昭和四九年五月二一日付けでした請求棄却の判定(人事院指令一三―二三)を取り消す。

3  被告人事院が原告川村政夫、同青山恵一及び同野沢保に対して昭和五〇年七月二日付けでした請求棄却の判定(人事院指令一三―二八)を取り消す。

4  被告国は、原告川島威に対し、金三〇万八九四四円とこれに対する昭和四九年五月二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び第4項について仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

(本案前の申立て)

原告川島威の懲戒処分取消し及び人事院判定取消しの訴えを却下するとの判決を求める。

(本案の申立て)

主文と同旨の判決を求める(なお、被告国に対する請求が認容され、仮執行宣言が付される場合には、仮執行免脱の宣言を求める。)。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、昭和四四年一一月一三日当時、いずれも通商産業省(以下「通産省」という。)の職員であり、原告川島及び同野沢は工業技術院地質調査所に、同泉部及び同木地は大臣官房調査統計部に、同福安は大臣官房会計課に、同細貝は、通商局市場第二課に、同川村は桐生繊維製品検査所(以下「桐生繊検」という。)に、原告青山は東京通商産業局(以下「東京通産局」という。)にそれぞれ所属していた。

2  被告工業技術院地質調査所長は原告川島に対し、被告通商産業事務次官は原告泉部、同木地、同福安、同細貝及び同川村に対し、被告東京通産局長は原告青山に対し、被告工業技術院長は原告野沢に対し、いずれも昭和四四年一二月二六日付けで、別紙処分一覧表の「処分理由」欄記載の理由により、原告らをそれぞれ戒告に処する旨の懲戒処分(以下「本件各処分」又は単独で「本件処分」という。)をした。

3  原告らは、本件各処分が違法かつ不当であるとして、被告人事院に審査請求をしたが(原告川島、同泉部、同木地、同福安及び同細貝の関係は昭和四五年第一三一号等併合事案、原告川村、同青山及び同野沢の関係は同年第一三三号等併合事案)、被告人事院は、原告川島、同泉部、同木地、同福安及び同細貝の請求については昭和四九年五月二一日付け人事院指令一三―二三により、原告川村、同青山及び同野沢の請求については昭和五〇年七月二日付け人事院指令一三―二八により、いずれも原告らの審査請求を棄却する旨の判定(以下「本件各判定」又は単独で「本件判定」という。)をし、右各判定書は、原告川島、同泉部、同木地、同福安及び同細貝については昭和四九年六月二二日以降、原告川村、同青山及び同野沢については昭和五〇年七月二五日以降、それぞれ原告らに送達された。

4  本件各処分及び本件各判定は、違法である。

5  原告川島は、昭和四九年五月一日付けで通産省を退職したが、違法な本件処分により、右退職時までに次のとおり合計三〇万八九四四円の損害を受けた。

(一) 同原告は、昭和四七年一月一日に研究職俸給表三等級一九号俸に昇給すべきところ、本件処分の結果、同年二月一日まで同一八号俸に据え置かれ、一か月間一号俸低い給与の支払を受け、そのため本俸の差額二七〇〇円とこれに対する調整手当(八パーセント)分二一六円の合計二九一六円の損害を受けた。

(二) 同原告は、昭和四九年二月一四日に同表三等級二〇号俸に調整されるべきところ、本件処分の結果、同一九号俸にしか調整されず、同年四月一日に同二〇号俸に昇給するまでの間一号俸低い給与の支払を受け、そのため本俸の差額五〇八七円、これに対する調整手当分四〇七円、期末手当の差額五三四円の合計六〇二八円の損害を受けた。

(三) 同原告は、違法かつ不当な本件処分により著しい精神的損害を受け、その損害は三〇万円を下らない。

6  よつて、原告らは本件各処分及び本件各判定の取消しを求めるとともに、原告川島は被告国に対し、損害金三〇万八九四四円とこれに対する同原告の退職の日の翌日である昭和四九年五月二日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの本案前の主張

原告川島は、昭和四九年五月一日付けで通産省を退職した。

懲戒処分は、公務員の義務違反に対して公務員法上の秩序を維持するために行う制裁であるから、給料請求権その他の権利が害されていない限り、被処分者は、公務員として組織体内部にとどまつている場合にのみ、懲戒処分の取消しを請求する利益を有する。ところが、戒告は、単に公務員の責任を確認し、その将来を戒めるものにすぎないから、被処分者が退職した後にはもはや回復すべき法律上の利益は残らない。なお、戒告により昇給延伸等の経済的不利益が生じることもあるが、公務員には昇給請求権ないしは法的な昇給期待権は認められていないから、右のような不利益は、単なる事実上の不利益であつて、法律上の不利益ではない。また、戒告により名誉を害されたとしても、それは戒告による事実上の効果にすぎないから、戒告処分を取り消すべき法律上の利益とはいえない。

よつて、原告川島は、本件処分及び本件判定の取消しを求める法律上の利益を有しないから、同原告の本件処分及び本件判定の取消しの訴えは不適法である。

三  本案前の主張に対する原告川島の答弁

原告川島が被告主張の日に通産省を退職したことは認めるが、その余の主張は争う。

一般職の職員の給与に関する法律(以下「給与法」という。)八条六項の規定は、職員を昇給させるか否かを各庁の長の裁量にゆだねているようにもみえるが、同項の解釈運用の実態に照らすと、職員は昇給請求権又は昇給期待権を有すると解すべきである。そして、通産省においては、戒告処分を受けた者は、例外なく三か月の昇給延伸を受けており、法令上昇給延伸を回復させる規定は存しないから、これによる不利益は継続かつ累積し、期末手当及び勤勉手当はもとより、退職金や年金にまで影響を及ぼす。したがつて、原告川島は、本件処分及び本件判定の取消しを請求するについて、右のような不利益を回復するという法律上の利益を有する。

四  請求原告に対する認否

1  請求原因第1項ないし第3項の事実は認める。

2  同第4項は争う。

3  同第5項のうち、原告川島が昭和四九年五月一日付けで通産省を退職したこと、同原告が昭和四七年二月一日まで研究職俸給表三等級一八号俸の適用を受けていたこと、同年一月一日から一月三一日までの間の同表三等級一八号俸と同一九号俸との間の俸給及び調整手当の差額が同原告主張のとおりであること、同原告が昭和四九年二月一四日に同一九号俸に調整されたこと、同年四月一日に同二〇号俸に昇給したこと、並びに同年二月一四日から三月三一日までの間の同一九号俸と同二〇号俸との俸給、調整手当及び期末手当の差額が同原告主張のとおりであることは認め、その余は否認する。

五  抗弁

1  昭和四四年一一月一三日実施の職場大会(以下「本件職場大会」という。)に至る経緯

(一) 全商工労働組合(以下「全商工」という。)の組織

全商工は、昭和四四年一一月当時、通産省の内部部局、附属機関及び地方支分部局並びに特許庁及び中小企業庁に勤務する職員(公共企業体等労働関係法の適用を受ける職員及び国家公務員法一〇八条の二第三項ただし書に規定する管理職員等に該当する職員を除く。)の大多数をもつて組織する職員団体であつて、組合員数は約一万名であり、その中央本部事務所を東京都千代田区霞が関一丁目三番一号の通産省内に置き、その下部組織として、地域別に九支部、機関別に六四分会を置いている。

(二) 全商工の昭和四四年度秋期闘争方針

全商工は、昭和四四年八月一九日から二二日まで、静岡県伊東市において、第三三期定期全国大会を開催し、同月一五日に行われた人事院勧告(一〇・二パーセント、五六六〇円引上げの勧告)の内容及びその実施時期を巡る諸般の情勢を踏まえて、以後の賃金闘争(昭和四四年度給与引上げ問題に関する闘争)の進め方等について討議し、その結果、昭和四四年度秋期闘争方針として、同年一〇月中旬以降の賃金闘争の山場に公務員労働組合共闘会議(以下「公務員共闘」という。)の統一ストライキを配置し、同年春以来行つてきた一万円以上の賃金引上げ及びスト権奪還を中心とする諸要求の実現を図るために闘うことなどを決定した。

(三) 全商工の秋期闘争方針の具体化

全商工もその一員として加盟している日本国家公務員労働組合共闘会議(以下「国公共闘」という。)は、同年九月二三日の臨時拡大評議員会において、秋期闘争方針として、賃金引上げは五月から実施すること、賃上げに当たつては最低引上げ四〇〇〇円を保証すること、諸手当を改善すること及び賃金体系を改善すること等を内容とする「当面の統一賃金要求」を確認決定し、また、秋の統一行動日を一一月一三日とし、その戦術を「早朝から職場大会を開き、始業時から二九分以内の勤務時間に食い込む職場大会」とすることを決定した。

全商工は、同年九月二五日、中央執行委員会総会を開催し、第三三期定期全国大会において採択された秋期闘争方針の具体化について討議し、国公共闘の右統一賃金要求事項を全商工の当面する賃金要求事項として決定するとともに、その実現を図るため、同年一一月一三日に「早朝(出勤猶予時間内くいこみ)職場大会」(具体的には、大臣訓令によつて時差出勤の認められている職場は九時三〇分までの、時差出勤の認められていない職場は八時五九分までの集会)を実施することを決定した。

また、全商工は、前記の第三三期定期大会及び中央執行委員会総会において、右の職場大会前及び職場大会当日朝から実力行使終了時まで組合員全員によるプレート行動を実施する旨決定した。

(四) 全商工の賃金要求と闘争宣言

全商工は、同年九月二六日、通産省当局に対し、前記秋期闘争方針に基づく要求として、前記統一賃金要求事項を内容とする要求書を提出した。また、全商工は、同年一〇月二三日付けで、右要求に対して当局が誠意を示さないときには、同年一一月一三日に公務員共闘二〇〇万の仲間と共に「統一ストライキ」を行う旨の闘争宣言を発し、これを同年一〇月二九日付け全商工新聞に掲載して組合員に配布し、本件職場大会の実行を呼び掛けた。

また、全商工は、賃金要求の貫徹を目標にストライキ体制の確立を図るため、傘下の各組織に対し、同年八月二六日付けで「三三全商工指令第一号・秋期闘争について」(以下「本部指令第一号」という。)を発して、前記定期大会で採択された秋期闘争方針の実施を指令し、同年九月二九日付けで「三三全商工指令第四号・秋期闘争方針の具体化―指令第一号の補強・具体化―」(以下「本部指令第四号」という。)を発して、前記中央執行委員会総会において決定された具体的な実施日及び戦術に基づいて実力行使を実施すべき旨指令した。更に、全商工は、組合員各自に実力行使に積極的に参加する旨の決意を表明させる趣旨の投票(以下「一票投票」という。)を実施するとともに、同年九月五日から一一月一二日までの間、組合員に対し秋期闘争方針を周知徹底し、ストライキ実行の必要性を訴え、これへの参加を呼び掛ける趣旨を含む全商工新聞(同年九月五日付け六九二号、同月一五日付け六九三号、同月二五日付け六九四号、同年一〇月一日付け号外、同月一五日付け六九六号、同月二二日付け六九七号、同月二九日付け六九八号、同年一一月五日付け六九九号、同月一二日付け七〇〇号)を発行、配布して教宣活動を強化するなどして、組合員の闘争意欲の盛上げを図つた。

(五) 本件職場大会実施以前に当局のとつた措置

同年一〇月二一日、大臣官房秘書課長増田実は、全商工の師岡中央執行副委員長及び岩田書記長に対し、全商工が同年一一月一三日に予定している勤務時間内食い込み早朝職場大会は違法であるから、職場大会は勤務時間前に必ず終了すること、万一勤務時間内に食い込む職場大会が実施された場合には国家公務員法上の懲戒処分の措置もあり得ることを明らかにして警告した。

同年一〇月二三日及び一一月一二日の二回にわたり、被告事務次官は、「職員の皆さんへ」と題する文書(以下「次官文書」という。)により、職員に対し、訓示を発し、勤務時間内に食い込む職場大会は違法であり、万一違法行為があれば法に照らして厳重に処分せざるを得ない旨警告を行つた。

同年一一月七日、通商産業大臣(以下「通産大臣」という。)は、全商工の中央執行委員長である原告川島、師岡副委員長及び岩田書記長に対し、「一一・一三ストは絶対にやめてもらいたい」旨強く要望した。

同月一一日、増田秘書課長は、全商工幹部に対し、「一三日の職場大会は、ストライキというようなことではなくて、必ず勤務時間前に終つてもらいたい。」と強く申し入れた。

同月一二日午後七時三〇分から約一時間、増田秘書課長は、師岡副委員長及び岩田書記長に対し、翌一三日の職場大会は必ず勤務時間前に終えるように警告した。

以上のほか、通産省当局は、本件職場大会について全商工本部、本省支部等各支部及び分会の幹部に対し度々警告を行つた。

なお、これらの警告措置のほか、本件職場大会を含む公務員共闘の統一ストライキについて、同年一〇月二三日、総理府総務長官の自重を求める談話及び公務員共闘議長あての警告書が発せられたので、通産省当局は、省内の組織を通じてその周知徹底を図つた。また、同年一一月一二日には、内閣官房長官も同趣旨の談話を発表した。

(六) 本件職場大会の実施

全商工は、以上の経緯を経て、同年一一月一三日、国公共闘統一ストライキとして、本件職場大会を実施するよう傘下の各組織に指令し、通産省当局の警告を無視してストライキを実施させた。この結果、全商工傘下の九支部、六四分会のうち、一支部、二八分会が約三四か所の職場において始業時以降の勤務時間内に約七分ないし約二九分食い込む職場大会を実施し、組合員約三二〇〇名がこれらの職場大会に参加して職務を放棄した。

2  全商工本省支部における本件職場大会の概況

(一) 本省支部の組織

全商工の本省支部は、通産省本省(特許庁、中小企業庁、工業技術院本院及び工業品検査所を含む。)に勤務する職員で組織され、その下部組織として、官房分会、調査統計分会等一五の分会があり、昭和四四年一一月当時の組合員数は約四〇〇〇名であつた。

(二) 本省支部におけるストライキ体制の確立

本省支部は、その闘争体制確立のため、次のような事前指導行為を行つた。

(1) 本部指令第四号を受けて、昭和四四年九月二九日から一〇月一日までの間に開催された本省支部執行委員会において、右指令に係る実力行使戦術を具体化し、本件職場大会を本省支部統一集会として中庭で行うこと、その時間は午前八時三〇分から九時三〇分までとすることなどを決定した。

(2) 本部指令を受けて、同年一〇月一日付けで傘下の各分会長あての指令を発し、賃金要求の実現、昇格を中心とする職場要求の実現等を目的として、同年一一月一三日に午前八時三〇分から九時三〇分までの職場大会を行うこと、集会は本省支部統一集会とし、本省中庭で行うこと等を指示した。

(3) 同年一〇月二二日から二八日にかけて、一票投票を実施し、ストライキ実施に向けて組合員の意思を結集し、組織体制の確立を図つた。

(4) 同年一〇月二三日及び二四日の両日、次官文書が全職員に配布されたのに対し、その返上を指導した。

(5) 同年一〇月三一日及び一一月一日の両日、本省支部第二一期一一月定期大会を開催し、本件職場大会の実施が提案され、これを最終的に確認し、ストライキ実施に向けての意思統一を図つた。

(6) 同年一〇月初めから一一月一二日までの間、秋期闘争方針を周知徹底し、ストライキ実行の必要性を訴え、これへの参加を呼び掛ける趣旨で、多数の「しぶニユース」、「闘争ニユース」及びビラを発行し、組合員に配布した。

(7) 前記(1)の支部執行委員会の決定に基づき、同年一一月一二日及び一三日の両日の勤務時間中、所属組合員に「大幅賃上げ」、「一万円以上引上げ」等の要求事項を記載したリボンを着用させ、組合員の団結をより強固なものにした。

(三) 本件職場大会実施以前に当局のとつた措置

通産省当局は、同年一〇月二二日、審議官室において、本省支部副委員長の原告木地及び同書記長の原告泉部ら本省支部役員に対し、同年一一月一三日に予定されている勤務時間内食い込み職場大会は違法であり万一これが実行された場合には懲戒処分もあり得ることを明らかにして警告するとともに、同年一〇月二二日から二三日にかけては、本省支部傘下の各分会に対応する各局等の庶務課長等から、それぞれの分会執行部に対して同趣旨の警告をした。更に、同月二三日、次官文書を各課長から各課職員に配布する際にも、その内容を補足説明する形で警告するとともに、同年一一月一二日にも次官文書を本省庁舎の約四〇か所に掲示して警告を行つた。

(四) 本省支部における本件職場大会の実施状況とその際の当局の対応

本省支部における本件職場大会は、同年一一月一三日午前八時四〇分ころ、通産省本省中庭において、原告泉部が約三〇〇名の大会参加者を前に開会を宣し、同原告の司会の下に開始された。

開会後、まず、伊藤本省支部執行委員長が演壇に立つて、職場大会開催の趣旨を述べ、本省支部独自の職場要求項目についても要求達成を訴え、次に、原告川島が、当局の警告に対して断固として反撃を加えた旨述べ、安保条約破棄及び沖縄全面返還を訴える演説を行い、当局側の警告措置に反して参加組合員を鼓舞激励した。続いて、原告木地が、全商工のほかに全農林や全運輸等他の組合も同様にストライキを行つていること、本省支部では一票投票が全分会で過半数の賛成を得たことなどの報告をするとともに、職場要求項目の達成を呼び掛けるなどして、大会参加者を激励し、その気勢を上げようとした。これら全商工本部及び本省支部幹部の演説の後、特許庁分会委員長、調査統計分会委員長、官房分会委員長の原告福安、通商分会委員長の原告細貝の順に、それぞれが決意表明の演説を行つた。

このような状況で勤務開始時刻である午前九時一五分が近くなつても職場大会は終了する様子がみられなかつたので、竹村豊大臣官房審議官は、午前九時一四分ころ、解散命令書を携えて中庭へ赴こうとしたが、三、四名の組合員によるピケのため阻止された。

そこで、午前九時一六分ころ、植田人事専門職が、官房長室から中庭に向けて設置した拡声機により、「ただいま九時一五分を過ぎ勤務時間です。本省支部委員長に対し、事務次官より解散命令が出されています。組合が現在開催している職場大会は違法であり、かつ、勤務時間中における中庭の使用は許可していないから、直ちに解散しなさい。」との放送を二度繰り返したが、大会はこれを無視して続行された。更に、午前九時一八分ころ、官房長室から就業命令を記載した懸垂幕を垂らして大会参加者に対して就業命令の発せられたことを明示するとともに、植田人事専門職が、拡声機で「大会に参加している職員に対し、事務次官より就業命令が出されています。皆さんの参加している職場大会は違法であるから、直ちに解散し、就業しなさい。」との放送を二度繰り返した。これに対し、大会の司会をしていた原告泉部は、大会参加者に向かい、マイクで「皆さんあの窓を見てください。当局は今不当にも解散命令を出しました。シユプレヒコールで抗議しましよう。」と呼び掛け、就業命令に応じないよう訴えてシユプレヒコールの音頭を取り、大会参加者らは、これに応じてシユプレヒコールを繰り返した。

このように、本省支部は、当局の事前の警告並びに当日の解散命令及び就業命令を無視して、午前九時二九分ころ伊藤本省支部執行委員長の閉会のあいさつ及び同人の音頭による「団結がんばろう」のシユプレヒコールによつて散会するまでの間、勤務時間内に約一四分間食い込む職場大会を実施し、これに参加した者は、その間職務を放棄した。

また、本省支部は、前記(二)(1)記載の支部執行委員会において、本件職場大会「当日は強力な説得ピケを配置する」旨決定し、大会前日の同月一二日「職場大会参加要領」として、組合員の大会当日の通路及び出入口を指定するとともに、通産省職員以外の部外者(新聞記者等)には通行証を発行し、右通行証を持参している者及び管理職員以外は、当日の午前九時三〇分までは庁舎に入らせないことなどを決定し、その旨を同日発行の「闘争ニユース」第六号により組合員に周知させたうえ、大会当日、通産省本省の六か所の出入口にそれぞれ組合員一〇名ないし一五名からなるピケを張り、登庁してくる職員に対して職場大会への参加を呼び掛けた。

3  全商工関東信越支部(以下「関信支部」という。)における本件職場大会の概況

(一) 関信支部の組織

全商工の関信支部は、本省支部組合員を除いた東京及び関東信越地区の通産省に勤務する職員で組織され、その下部組織として、地質調査所分会など工業技術院関係の九つの試験研究所分会のほか、東京通商産業局分会(以下「東京通産局分会」という。)、桐生繊維製品検査所分会(以下「桐生繊検分会」という。)など合計一三の分会があり、昭和四四年一一月当時の組合員総数は約二七〇〇名であつた。

(二) 関信支部におけるストライキ体制の確立と本件職場大会の実施状況

関信支部は、本部指令第一号に基づいて、傘下の各分会委員長あて、昭和四四年九月三日付け第四四期全商工関信支部指令第二号「ストライキを含む秋の闘争について―本部指令第一号“秋期闘争について”の具体化―」(以下「関信支部指令第二号」という。)を発し、同指令において、ストライキの準備活動として、同月「一三日までに分会・支部などで統一要求書をもつて所属長交渉を行い」、同年「一〇月中旬ころ、秋のストライキ戦術に参加するか否かを問う一票投票を行う」ことなどを指示するとともに、本件職場大会の実施時間及び開催場所を指示した。

各分会では、関信支部指令第二号に基づいて、同年一〇月中旬から一一月上旬にかけて一票投票を実施するなどの事前指導行為を行つて、ストライキ体制の確立を図つた。

その結果、通産省当局の度重なる警告にもかかわらず、同年一一月一三日、関信支部傘下の一三分会、一八か所の職場において、勤務時間内に七分ないし二九分間食い込む本件職場大会が実施され、関信支部の組合員約一七〇〇名がこれに参加し、その間職務を放棄した。

4  桐生繊検分会における本件職場大会の概況

(一) 桐生繊検の組織等

桐生繊検は、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県及び長野県の全域並びに埼玉県の一部の地域を管轄し、輸出検査法所定の繊維関係の輸出検査、繊維製品検査所依頼検査規則に基づく依頼検査、輸出検査法や工業標準化法などに基づく立入検査等の業務を担当する機関である。

その組織は、桐生市に本所を置き、足利市など三か所に支所を設け、昭和四四年一一月当時の所属人員は本所に所長以下三四名、三支所に七名の合計四一名で所長及び庶務課長以外の職員のほぼ全員が桐生繊検分会を組織していた。

桐生繊検の勤務時間は、午前八時三〇分から午後五時までと定められていた。

(二) 桐生繊検分会における本件職場大会への準備活動と当局の対応

桐生繊検分会は、関信支部指令第二号に基づき、昭和四四年一〇月中旬から一一月上旬にかけて一票投票を実施するなどして、その闘争体制の確立を図つた。

当局は、龍野所長が、同年一〇月二二日、桐生繊検分会執行委員長である原告川村ら分会三役に対し、通産大臣官房秘書課長からの伝達事項として、「〈1〉一一月一三日に勤務時間内に食い込む職場大会を計画しているようであるが、職務時間前に終了すること、〈2〉所定の場所ですること、〈3〉勤務時間中のリボン闘争は違法であること、〈4〉指導者はもとより単純参加者も処分の対象となること」等を伝達し、翌二三日には、全職員を集めて「職員の皆さんへ」と題する次官文書の趣旨を伝達説明した後、庶務課長を通じて右次官文書を全職員に手交した。しかし、桐生繊検分会役員らは、意思を通じて、組合員に対し、次官文書を所長に返上するよう指示してこれを回収した。また、龍野所長は、同年一一月一二日、原告川村ら分会三役に対し、翌一三日の時間内食い込み職場大会は違法であるので中止するよう警告し、更に次官文書を所内の掲示板に掲示した。

(三) 桐生繊検分会における本件職場大会の実施状況

桐生繊検分会は、同年一一月一三日午前八時一〇分ころから八時五七分ころまでの間、桐生繊検本所庁舎玄関前付近において本件職場大会を開催し、組合員約二九名がこれに参加し、午前八時三〇分の勤務開始時刻以降大会終了までの間職務を放棄した。

本件職場大会は、原告川村のあいさつで始まり、続いて同原告が職場大会開催の趣旨及び経過について演説し、来賓のあいさつなどの行事を行つて終了した。

5  東京通産局分会における本件職場大会の概況

(一) 東京通産局の組織等

東京通産局は通産省本省のうち鉱山保安局を除く各部局及び外局の事務を、東京鉱山保安監督部は鉱山保安局の事務をそれぞれ所掌する地方支分部局であり、これらの本局は東京都千代田区の大手町合同庁舎第二号館内に設置されていた。

昭和四四年一一月当時、東京通産局本局の職員のうちアルコール特別会計及び平石炭支局の職員を除く職員、横浜・清水両通商事務所職員並びに東京鉱山保安監督部の職員合計約四二〇名が東京通産局分会を組織していた。

東京通産局本局及び東京鉱山保安監督部の一般職員の勤務時間は、午前九時一五分から午後五時三〇分までと定められていた。

(二) 東京通産局分会における本件職場大会への準備活動と当局の対応

東京通産局分会は、昭和四四年一〇月二三日の臨時分会大会において、第1項(三)記載の国公共闘の統一要求事項を確認するとともに、超過勤務手当の本省との格差をなくすことなど九項目の職場要求を決定し、本件職場大会については、午前八時三〇分から九時三〇分まで九階エレベーター前ホールで行うことを確認した。

その後、東京通産局分会は、関信支部指令第二号に基づき、同年一〇月中旬から下旬にかけて一票投票を実施したほか、同月二九日付け(二五六号)、同月三〇日付け(二五七号)及び同年一一月七日付け(二五九号)の「組合ニユース」で、組合員に対し、本件職場大会の正当性を主張し、これへの参加を呼び掛けるなどして、その闘争体制の確立を図つた。

当局は、同年一〇月二二日、佐成総務部長が東京通産局分会の井上事務局長及び淵上事務局次長に対し、「職場大会は勤務時間までに終わらせるよう組合の良識ある行動を期待する。もし違法な職場大会が行われるようであれば、主催者はもとより単純参加者も法に照らして処分せざるを得ない」旨の警告をし、翌二三日には、各課において職員に対し次官文書を配布し、同月二九日には、総理府総務長官談話の写しを各課に配布して職員に回覧させた。しかし、東京通産局分会の役員らは、意思を通じ、同月二四日又は二五日に、各課ごとにその課所属の分会執行委員又は分会委員が、組合員らから次官文書を回収したうえ、所属課長に一括して返上し、組合員らに対し、右警告を無視して職場大会に参加するよう呼び掛けた。当局は、更に、同年一一月一二日の午後、次官文書を庁舎九階の当局掲示板及び地下一階の合同掲示板に掲示して、その趣旨の徹底を図つた。

(三) 東京通産局分会における本件職場大会の実施状況とその際の当局の対応

東京通産局分会は、同年一一月一三日午前八時五五分ころから九時二七分ころまでの間、本局庁舎九階エレベーター前ホール付近において本件職場大会を開催し、一五〇名を超える組合員がこれに参加し、勤務開始時刻である午前九時一五分以降大会終了に至るまでの間、職務を放棄した。本件職場大会は、東京通産局分会の執行委員長である原告青山のあいさつで始まり、本部あいさつ、激励電報の紹介、決議文の採択、スローガンの確認の後、「団結がんばろう」の斉唱で終了した。

この間、当局は、本件職場大会が庁舎管理者の許可を受けないで行われていることから、東京通産局長名の解散命令書を作成し、午前九時ころ、今井総務課長及び玉井会計課長が、これを原告青山に手交するため、本局庁舎九階の局長室から東側廊下を通つて大会場へ赴こうとしたが、廊下の途中で分会の組合員七、八名からなるピケ隊に阻止され、命令の趣旨を説明して通行を求めても阻止を解かないため、やむなく引き返した。更に、勤務開始時刻である午前九時一五分になつても本件職場大会が続行されていたので、京本総務部長が、今井、玉井の各課長と課長補佐二名を伴つて、右解散命令書を原告青山に手交するため大会場に赴こうとしたが、前同様ピケ隊に阻止された。そのころ、小山会計課長補佐は、局長の命により就業命令を記載したプラカードを携えて大会場に赴こうとしたが、やはりピケ隊に阻止されたため、その場でプラカードを高く掲げて大会場の方向に示した。

原告青山は、右のように当局側の管理者が各命令書を携えてきていることを了知すると、いつたん大会議事を中断して自ら音頭を取り、「当局は不当な干渉をやめろ」などと数回にわたつてシユプレヒコールを繰り返して、右各命令を無視するよう参加組合員を鼓舞激励し、本件職場大会を続行した。

6  地質調査所分会における本件職場大会の概況

(一) 地質調査所の組織等

地質調査所は、工業技術院に置かれている試験研究所の一つであり、地質及び地下資源の調査等を行うことを業務とし、研究企画官、総務部等が東京都新宿区市谷河田町所在の東京分室に、地質部、応用地質部等が神奈川県川崎市溝ノ口所在の本所に設置されていた。

地質調査所分会は、昭和四四年一一月当時、本所に勤務する職員約二五五名中の約二五〇名、東京分室に勤務する職員約一三〇名中の約一二〇名と、名古屋及び九州の各出張所に勤務する職員で組織されていた。

東京分室における一般職員の勤務時間は、午前九時一五分から午後五時三〇分までと定められていた。

(二) 地質調査所分会における本件職場大会への準備活動と当局の対応

地質調査所分会は、関信支部指令第二号に基づき、昭和四四年一〇月中旬から一一月上旬にかけて一票投票を実施し、同年一〇月二七日付けで「一三ストの準備をかためよう」、「一票投票を決意をこめて記入しよう」などと記載した「闘争ニユース」号外を組合員に配布するなどして、その闘争体制の確立を図つた。

当局は、同月二二日、上村総務部長が分会委員長である原告野沢ら分会三役に対し、勤務時間内食い込み職場大会は違法であり、万一これが実行された場合には指導者はもちろん単純参加者も法に照らして処分せざるを得ない旨警告するとともに、翌二三日には、各部課長を通じて全職員に次官文書を配布した。しかし、地質調査所分会の役員らは、意思を通じ、同月三一日ころまでに次官文書を回収して所長に返上させ、組合員らに対し、右警告を無視して本件職場大会に参加するよう呼び掛けた。当局は、更に、同年一一月一二日、次官文書を所内の掲示板二か所に掲示して、その趣旨の徹底を図つた。

(三) 地質調査所分会における本件職場大会の実施状況とその際の当局の対応

地質調査所分会は、同年一一月一三日午前八時三〇分ころから九時二四分ころまでの間、東京分室中庭において本件職場大会を開催し、約四〇名の組合員がこれに参加し、勤務開始時刻である午前九時一五分以降大会終了に至るまでの間、職務を放棄した。本件職場大会は、原告野沢のあいさつで始まり、同原告が、情勢報告などをした後、「がんばろう」のシユプレヒコールの音頭を取り、終了宣言をして終了した。

この間、当局は、上村総務部長が、午前九時一五分ころ、解散及び就業を命ずるために大会場へ赴こうとしたが、守衛室横出入口の内側付近において組合員三名のピケに阻止され、それ以上大会場に近付けなかつたので、その位置から大会場に向かつて、「九時一五分になつたから直ちに解散してください。皆さんも就業してください。」と二回大声で命令を伝達し、更に午前九時二二分ころ、前同様の目的で大会場に向かつたが、前同様の位置で組合員三名のピケに阻止されたため、「まだやめないんですか。早くやめて下さい。」と申し向けた。

7  本件職場大会の違法性

本件職場大会は、前記のとおり、全商工本部の指令に基づき、当局の許可を得ないで、本省支部においては午前九時一五分以降の勤務時間内に約一四分食い込む午前九時二九分ころまで、桐生繊検分会においては午前八時三〇分以降の勤務時間内に約二七分食い込む午前八時五七分ころまで、東京通産局分会においては午前九時一五分以降の勤務時間内に約一二分食い込む午前九時二七分ころまで、地質調査所分会においては午前九時一五分以降の勤務時間内に約九分食い込む午前九時二四分ころまで実施され、これに参加した職員はその間職務を放棄したものである。以上のほか、全商工傘下の二五分会が各職場において始業時間以降の勤務時間内に約七分ないし約二九分食い込む職場大会を実施し、これに参加した組合員はその間職務を放棄した。

このように通産省の職員が当局の許可なく勤務時間内に職場大会を開催しこれに参加することは、国家公務員法(以下「国公法」という。)九八条二項にいう同盟罷業に当たり、同項に違反する行為であることが明らかである。

そして、同項が憲法に違反するものでないことは最高裁判所の判決(昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁)が判示しているし、違法な争議行為に参加した者が懲戒処分を免れないことも最高裁判所の判決(昭和五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁)が判示している。

なお、原告らは、本件職場大会はいずれも出勤猶予時間ないし出勤簿整理時間内に終了した旨主張している。当時、通産省本省においては午前九時三〇分までが出勤簿整理時間とされていた。

しかし、国家公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件については、勤務条件法定主義の立場から、その基礎事項は法律によつて定め、細目については法律の委任に基づく人事院規則によつて定めるとされており、各官署において右法令に基づく勤務時間を独自に変更することは許されず、また、右法令の定めと異なる労働慣行の成立する余地もない。すなわち、法令によつて定められた正規の始業時刻を変更する趣旨の下に出勤猶予時間又は出勤簿整理時間を置くことは許されないのである。出勤簿整理時間は、出勤簿管理の事務上の必要に基づき、各官署の長が勤務時間管理員に対して発した職務命令により定められているものであり、その趣旨は、正規の出勤時刻から一定時間内に出勤簿の整理を完了することを命ずるとともに、出勤した職員がこの時刻までに出勤簿に押印したときは、正規の出勤時刻に出勤したものとして事実上取り扱つているものにすぎず、もとより職員との関係において正規の出勤時刻を変更するとか、出勤簿整理時間内の勤務を免除するという性質のものではない。また、出勤猶予時間も、職員がその時間内に出勤して出勤簿に押印すれば、その者を勤務開始時刻までに出勤したものとして取り扱い、遅刻とはしないという消極的な効果が付与されているものにすぎない。このように出勤猶予時間又は出勤簿整理時間といえども勤務を要する時間であることに変わりはなく、職員はこれらの時間を勤務以外の目的に自由に使用し得るものではなく、この時間内に出勤した職員は直ちにその職務に従事する義務があり、当局側もその者に対しその職務に従事するよう命じることができるのである。そして、出勤簿への押印は単に職員が定時に出勤したことを証明するための手段にすぎないのであるから、仮に既に出勤した職員が出勤簿への押印を遅らせているとしても、その職員は右義務を免れるものではない。

したがつて、本件職場大会が、仮に出勤猶予時間又は出勤簿整理時間内に行われたものであるとしても、国公法九八条二項に違反することは明らかである。

8  原告らの行為と処分理由該当性

(一) 本件職場大会当時、原告川島は全商工中央執行委員長、原告泉部は全商工本省支部書記長、原告木地は同支部執行副委員長、原告福安は同支部官房分会委員長、原告細貝は同支部通商分会委員長、原告川村は全商工関信支部桐生繊検分会執行委員長、原告青山は同支部東京通産局分会執行委員長、原告野沢は同支部地質調査所分会委員長の地位にあり、原告川島、同泉部及び同木地は組合専従職員であつた。

原告らに対する本件各処分の処分理由は、別紙処分一覧表「処分理由」欄記載のとおりであるが、これを敷えんとすると、次のとおりである。

(二) 原告川島

第一に、同原告は、第1項(二)及び(三)記載の全商工の闘争方針の決定とその具体化に全商工中央執行委員長として参画しており、これらの行為は、同原告が本件職場大会の「企て、遂行の共謀」をしたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。第二に、同原告は、自己名義で本部指令第一号及び第四号を発し、また、全商工中央執行委員長として、第1項(四)記載の全商工新聞の発行と組合員への配布、闘争宣言の発出とこれを全商工新聞へ掲載して組合員へ配布すること、及び一票投票の実施、並びに同項(三)記載のプレート行動の実施の各決定に参画し、一票投票及びプレート行動については、本件指令第一号及び第四号によつて傘下の各組織に指令してこれらを実施させ、本省支部における本件職場大会で第2項(四)記載のとおりの演説を行つて組合員を鼓舞激励したが、以上の行為は、同原告が本件職場大会遂行の「あおり、そそのかし」を行つたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。

(三) 原告泉部

第一に、同原告は、第2項(二)(1)記載の支部執行委員会の決定及び同項(二)(5)記載の支部定期大会での提案と確認に支部書記長として参画しており、これらの行為は、同原告が本件職場大会の「企て、遂行の共謀」をしたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。第二に、同原告は、同項(二)(3)記載の一票投票の実施決定、同項(二)(4)記載の次官文書の返上指導についての意思決定、同項(二)(6)記載の「しぶニユース」、「闘争ニユース」及びビラの発行、配布についての意思決定、同項(二)(7)記載のリボン着用の決定、並びに同項(四)記載のピケ配置の決定及び「職場大会参加要領」の決定とそれらの実施についての意思決定に、支部書記長として参画し、これらの決定を実施させ、本件職場大会においては、同項(四)記載のとおり、就業命令に応じないよう参加者に訴えてシユプレヒコールの音頭を取つたが、以上の行為は、同原告が本件職場大会遂行の「あおり、そそのかし」を行つたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。

(四) 原告木地

第一に、同原告は、第2項(二)(1)記載の支部執行委員会の決定、及び同項(二)(5)記載の支部定期大会での提案と確認に支部執行副委員長として参画しており、これらの行為は、同原告が本件職場大会の「企て、遂行の共謀」をしたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。第二に、同原告は、同項(二)(3)記載の一票投票の実施決定、同項(二)(4)記載の次官文書の返上指導についての意思決定、同項(二)(6)記載の「しぶニユース」、「闘争ニユース」及びビラの発行、配布についての意思決定、同項(二)(7)記載のリボン着用の決定、並びに同項(四)記載のピケ配置の決定及び「職場大会参加要領」の決定とそれらの実施についての意思決定に、支部執行副委員長として参画し、これらの決定を実施させ、本件職場大会においては、同項(四)記載のとおりの演説をして、大会参加者を激励し、かつ、その気勢を上げようとしたが、以上の行為は、同原告が本件職場大会遂行の「あおり、そそのかし」を行つたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。

(五) 原告福安

同原告は、第2項(四)記載のとおり、本件職場大会において官房分会委員長として決意表明の演説を行い、大会の実施に関して指導的役割を果たしたが、この行為は、本件職場大会への参加として、国公法九八条二項前段及び一〇一条一項に違反し、同法八二条一号及び二号に該当する。

(六) 原告細貝

同原告は、第2項(四)記載のとおり、本件職場大会において通商分会委員長として決意表明の演説を行い、大会の実施に関して指導的役割を果たしたが、この行為は、本件職場大会への参加として、国公法九八条二項前段及び一〇一条一項に違反し、同法八二条一号及び二号に該当する。

(七) 原告川村

第一に、同原告は、第4項(二)記載の一票投票の実施を指示してこれを実施させ、次官文書を返上するについての意思決定に分会執行委員長として参画し、本件職場大会においては、同項(三)記載のとおり、あいさつと演説を行い、大会開催の意義を参加者に訴えたが、これらの行為は、同原告が本件職場大会遂行の「あおり、そそのかし」を行つたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。第二に、同原告は、事前の警告を無視して同項(三)記載の本件職場大会に参加し、約二七分間にわたつて職務を放棄したが、この行為は、同法九八条二項前段及び一〇一条一項に違反し、同法八二条一号及び二号に該当する。

(八) 原告青山

第一に、同原告は、第5項(二)記載の臨時分会大会の決定及び確認に分会執行委員長として参画したが、この行為は本件職場大会「遂行の共謀」を行つたものと評価できる。第二に、同原告は、同項(二)記載の一票投票の実施、「組合ニユース」の発行と配布及び次官文書を返上するについての意思決定に分会執行委員長として参画し、同年一〇月三一日午後二時ころ、東京通産局総務課において、同課の職員に対し、一票投票の趣旨を説明して投票を指示し、本件職場大会においては、同項(三)記載のとおり、当局の解散命令等を無視するよう参加組合員を鼓舞激励したが、以上の行為は本件職場大会遂行の「あおり、そそのかし」をしたものと評価できる。第三に、同原告は、同項(三)記載の本件職場大会に就業命令を無視して参加し、約一二分間にわたつて職務を放棄した。同原告の第一及び第二の行為は、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当するし、第三の行為は、同法九八条二項前段及び一〇一条一項に違反し、同法八二条一号及び二号に該当する。

(九) 原告野沢

第一に、同原告は、第6項(二)記載の一票投票の実施、「闘争ニユース」の発行と配布及び次官文書を返上するについての意思決定に分会委員長として参画したが、これらの行為は、同原告が本件職場大会遂行の「あおり、そそのかし」を行つたものと評価できるから、国公法九八条二項後段に違反し、同法八二条一号に該当する。第二に、同原告は、同項(三)記載の本件職場大会に就業命令を無視して参加し、約九分間にわたつて職務を放棄したが、この行為は、同法九八条二項前段及び一〇一条一項に違反し、同法八二条一号及び二号に該当する。

(一〇) 以上のとおり、原告らにはいずれも処分を相当とする理由があり、被告らの裁量権行使について社会観念上著しく妥当を欠くと認められる事情も存在しないから、本件各処分はいずれも適法なものというべきである。

9  原告川島の損害賠償請求に対する消滅時効の抗弁

原告川島が損害賠償請求の訴状を提出したのは、昭和五八年四月二三日である。しかし、同原告の主張する損害賠償請求権は、同原告に対する本件処分の効力が発生した日の翌日である昭和四四年一二月二八日から起算して三年を経過した昭和四七年一二月二七日をもつて時効により消滅した。仮にそうでないとしても、右請求権は、遅くとも、同原告が本件処分が違法であることを確信して右処分の取消しを求める訴えを提起した昭和四九年九月二〇日の翌日から起算して三年を経過した昭和五二年九月二〇日をもつて時効により消滅した。

六  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁第1項(一)の事実は認める。

全商工の最高意思決定機関としては全商工大会があり、それに次ぐ意思決定機関として中央委員会がある。中央執行委員会は、全商工大会及び中央委員会の決定の執行の責任を負つている。

支部における最高意思決定機関は支部大会であり、分会のそれは分会大会又は分会総会であり、それらで決定された方針の執行責任は、それぞれ支部執行委員会、分会執行委員会が負つている。なお、全商工は単一組織であるから、中央で決定された方針は支部及び分会を拘束する。

(二)  同項(二)の事実中、大会における決定の内容は否認し、その余は認める。

(三)  同項(三)の事実中、国公共闘臨時拡大評議員会が被告ら主張の日時に被告ら主張の「当面の統一賃金要求」の確認を行つたこと、全商工中央執行委員会総会が被告ら主張の日時に被告ら主張の討議、決定を行つたことは認め、その余は争う。国公共闘は、無条件に職場大会の開催を確認したのではない。また、全商工も、国公共闘の統一賃金要求を要求事項として決定したが、「その実現を図るために」本件職場大会の実施を決定したのではない。

(四)  同項(四)の事実中、全商工が、通産省当局に要求書を提出したこと、闘争宣言を発し、これを全商工新聞に掲載して組合員に配布したこと、本部指令第一号及び第四号を発したこと、一票投票を実施したこと、被告ら主張の全商工新聞を発行、配布したことは認めるが、その余は争う。

(五)  同項(五)は争う。一〇月二一日に、大臣官房秘書課長から全商工本部に「一一・一三行動をやめてほしい。」との申入れがあり、同月二三日には、被告事務次官名で「職員のみなさんへ」と題する文書が配布されたことはあるが、右申入れは警告ではなく「お願い」であり、右文書も多くは単に机上に置かれていたにすぎない。

(六)  同項(六)の事実中、全商工が被告ら主張の日に本件職場大会を実施するよう傘下の各組織に指令を行つたことは認め、その余は争う。

2(一)  抗弁第2項(一)の事実は認める。

(二)  同項(二)のうち、(1)ないし(5)の事実は認める。(6)のうち、本省支部が被告ら主張のニユース、ビラを発行、配布したことは認め、その余は争う。(7)は争う。

(三)  同項(三)は争う。

(四)  同項(四)のうち、本省支部が被告ら主張の日時、場所において本件職場大会を開催したこと、本件職場大会における全商工の役員らの発言の内容とその順序(ただし、調査統計分会委員長の決意表明は原告福安のそれの次に行われた。)、本省支部が被告ら主張の「闘争ニユース」を発行したことは認め、その余は争う。

3(一)  抗弁第3項(一)の事実は認める。

(二)  同項(二)のうち、本部指令第一号に基づいて関信支部指令第二号が発出され、右指令に被告らの引用する記載があること、一票投票が実施されたこと、被告ら主張の分会で職場大会が実施され、組合員がこれに参加したことは認め、その余は争う。

4(一)  抗弁第4項(一)のうち、勤務時間に関する主張は争い、その余の事実は認める。

(二)  同項(二)のうち、一票投票が実施されたこと、次官文書が配布され、原告川村がこれを所長に返上したことは認めるが、その余は争う。分会は、同年一一月四日の所長交渉において、本件職場大会の実施を通告するとともに、解散命令や就業命令は混乱のもとになると困るから出すべきでない旨申し入れ、所長は、これを了解し、分会の統一行動への参加に干渉しないと約束した。

(三)  同項(三)のうち、被告ら主張の時間が勤務を要するものであること、組合員が職務を放棄したことは争い、その余の事実は認める。

5(一)  抗弁第5項(一)のうち、勤務時間に関する主張は争い、その余の事実は認める。

(二)  同項(二)のうち、被告ら主張のとおり、東京通産局分会が臨時分会大会を開催して確認を行い、一票投票を実施し、各「組合ニユース」を発行したこと、次官文書が配布され、その返上が行われたことは認め、その余は争う。

(三)  同項(三)のうち、被告ら主張の日時、場所において本件職場大会が開催され、被告ら主張の行事が行われたこと、組合員らが「当局は不当な干渉をやめろ」などと唱和したことは認め、その余は争う。当局は、本件職場大会に干渉しようとし、プラカードや放送などで妨害しようとした。

6(一)  抗弁第6項(一)のうち、勤務時間に関する主張は争い、その余の事実は認める。

(二)  同項(二)のうち、地質調査所分会が一票投票を実施し、「闘争ニユース」号外を配布したこと、次官文書が配布され、その返上が行われたことは認め、その余は争う。

(三)  同項(三)のうち、被告ら主張の日時、場所において本件職場大会が行われ、被告ら主張の行事が行われたこと(ただし、原告野沢が情勢報告をし、シユプレヒコールの音頭をとつたとの点を除く。)は認め、その余は争う。本件職場大会の際、分会では、三名の組合員を対官折衝係として、玄関から会場の中庭へ通じる出入口付近の庁舎内に配置していたが、これらの者は、上村総務部長と二、三の会話を交わしたにすぎない。

7  抗弁第7項のうち、当時、通産省本省において午前九時三〇分までが出勤簿整理時間とされていたことは認め、その余は争う。後記七のとおり、本件職場大会は違法なものではない。

8(一)  抗弁第8項(一)の事実は認める。

(二)  同項(二)のうち、原告川島が、全商工全国大会及び中央執行委員会総会において一票投票及びプレート行動の実施決定に参画したこと、本件職場大会において被告ら主張の演説をしたことは認め、その余は争う。

(三)  同項(三)のうち、原告泉部が一票投票の実施、リボンの着用及びピケ配置を決定した支部執行委員会に参画したこと、本件職場大会において被告ら主張の呼び掛けを行つたことは認め、その余は争う。

(四)  同項(四)のうち、原告木地が、一票投票の実施、リボンの着用及びピケ配置を決定した支部執行委員会に参画したこと、本件職場大会において被告ら主張の演説を行つたことは認め、その余は争う。

(五)  同項(五)のうち、原告福安が本件職場大会において被告ら主張の演説を行つたことは認め、その余は争う。

(六)  同項(六)のうち、原告細貝が本件職場大会において被告ら主張の演説を行つたことは認め、その余は争う。

(七)  同項(七)のうち、原告川村が本件職場大会に参加し、被告ら主張のあいさつと演説を行つたことは認め、その余は争う。

(八)  同項(八)のうち、原告青山が被告ら主張の日時、場所において一票投票の趣旨を説明したこと、本件職場大会に参加したことは認め、その余は争う。

(九)  同項(九)のうち、原告野沢が本件職場大会に参加したことは認め、その余は争う。

(一〇)  同項(一〇)は争う。

9  抗弁第9項については、原告川島が被告国主張の日に訴状を提出したことは認めるが、同原告の損害賠償請求権が時効により消滅したことは争う。

民法七二四条にいう「加害者を知る」というためには、加害行為が「不法」な行為であることを知る必要があり、本件のように行政処分の法的効力を争つている場合には、当該行政処分が違法又は不当であることが判決で確定した時に「不法」行為であることを知つたものというべく、その時から時効は進行を開始するのである。したがつて、本件においては懲戒処分取消しの裁判が確定していないから、時効は進行を開始していない。

七  原告らの主張

1  国公法九八条二項と憲法二八条

(一) 労働基本権の保障とその制約基準

公務員が憲法二八条にいう「勤労者」であることは明らかであるから、憲法二八条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。そして、団結権等の労働基本権は、市民法的な国家からの自由としての側面を有するのみならず、生存権に由来し、これを実現するための唯一不可欠の権利として承認されたものでもある。このような労働基本権の基本的性格に照らすと、労働基本権は、単なる手段的な権利ではなく、容易に他に代替し、代償され得るものではない。したがつて、労働基本権を制限する立法の憲法適合性の審査に当たつては、経済的自由を制限する立法の審査の際に用いる明白性の原則(合理性の基準)ではなく、より厳しいいわゆるL・R・Aの原則(より制限的でない他の選び得る手段の原則)又は明白にして現在の危険の原則を基準として用いるべきである。

(二) 勤務条件法定主義ないし財政民主主義について

公務員の争議権を制約する根拠として、いわゆる勤務条件法定主義が主張されている。すなわち、公務員の給与その他の勤務条件は、私企業の場合のごとく労使間の自由な交渉に基づく合意によつて定められるものではなく、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によつて定められることとなつており、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないという主張である。この主張は、憲法七三条四号が「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」は内閣の事務であると定めていることをその法制上の根拠としている。更に、憲法八三条に定める財政民主主義の原則上からも、公務員の勤務条件を国会の意思とは無関係に労使間の団体交渉によつて共同決定することは憲法上許されないと主張されている。

しかし、憲法七三条四号は、法律の定める基準に基づいて官吏の事務を処理するのは本来的に内閣の所掌であることを定めたものにすぎず、ただ、勤務条件について法律の定めがある限り、それと異なる勤務条件を決定するには、法律の改廃という手続を経る必要があるにとどまる。法定された勤務条件について、事情の変化に応じてその内容に変更を加えることを立案し、国会に提案することは、使用者としての政府の責務であり、その前提として政府が公務員の団体と交渉することはもちろん、協約を締結することも、後記の配慮がされている限り、憲法上何らの問題も生じない。

次に、財政民主主義は、権力分立機構の下で、内閣の行政権能が国会の監督、統制に服するという大原則の一つの現れにすぎず、国家公務員に関する事務を掌理する使用者としての政府も国会の統制下に置かれるものの、そのことから当然に、公務員の勤務条件を決定する権能が憲法上国会に属しているというのは誤りである。ただ、このような機構の下では、政府が公務員の組合と団体交渉をして協約を締結しても、その協約が既存の法律や予算と抵触する場合には、これによつて勤務条件を最終的に決定することはできない。しかし、このような抵触は、協約において国会の承認を停止条件とし、又は国会の不承認を解除条件とする旨定めておくなどの配慮をすることによつて容易に回避することができ、国会の権限を侵害することもないのである。そして、このような留保付きの協約を締結するための団体交渉もまた、労働基本権保障の趣旨から考えて、充分実質的な意味をもち、憲法二八条で保障された団体交渉権に含まれる。したがつて、労使が勤務条件について最終的に共同決定できる場合にのみ憲法二八条の団体交渉権が認められるとの見解は誤つている。

また、憲法における統治の機構の定めは国民の基本的人権の保障のために存在するのであるから、統治の機構に関する財政民主主義の原則を根拠として、国民の基本的人権の一部である労働基本権に制約を加えることは許されない。

(三) 国際的な基準

諸外国においては、労使関係について官民均質化の方向を目指しており、既に多くの国において、公務員の争議権が認められ、又は認められつつある。

わが国も批准しているILO九八号条約は協約締結のための団体交渉の促進を規定しているが、同条約は、国の行政に従事しない公務員には無条件で適用されるものである。原告川島及び同野沢は調査・研究職員であつて国の行政に従事する者ではないから、同原告らの労働条件は、右条約に照らし、団体交渉によつて定められるべきである。したがつて、憲法二八条の団体交渉権の保障は同原告らにも及ぶものである。更に、国は、行政に従事しない公務員について団体交渉手続を促進すべき条約上の義務を負担しているのであるから、「国家公務員は、すべて憲法上の地位の特殊性から、団体交渉権の保障がない。」との解釈は誤つている。

また、ILO一五一号条約、同一五四号条約やヨーロツパ社会憲章等に照らしても、団体交渉権は、前記のように広く解すべきであり、これを労使による労働条件の共同決定をする権利に限定することは誤つている。

なお、昭和五七年の公労委の仲裁裁定が通常国会で審議されなかつた件について、ILOの結社の自由委員会は、総評等の申立てに基づき、「ストライキが不可欠業務若しくは公務において禁止されているところでは、〈1〉このような制約が適切・公平かつ迅速な調停・仲裁手続による代償措置を伴い、その裁定がすべてのケースにおいて両当事者を拘束し、裁定がいつたん下された場合には、全面的かつ迅速に実施されるべきであるという原則、及び〈2〉立法府に対する予算権の留保が強制仲裁機関によつて下された裁定の内容を順守するのを妨げる効果をもつてはならないという原則」に基づいて勧告を決定し、右決定は同年一一月一七日のILO理事会において承認された。右決定に照らすと、国会に予算議決権があることを理由に、公務員に団体交渉権及び争議権がないとする見解は、国際的基準に反するものである。

(四) 以上によると、国家公務員の争議権を一律かつ全面的に禁止する国公法九八条二項の規定は、憲法二八条に違反し、無効である。

(五) 仮に国公法九八条二項の規定が憲法二八条に違反しないとしても、国公法九八条二項の規定を憲法二八条の精神に即し、これと調和し得るよう合理的に解釈すれば、最高裁判所大法廷のいわゆる全逓東京中郵事件についての昭和四一年一〇月二六日の判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)、いわゆる都教組事件についての昭和四四年四月二日の判決(刑集二三巻五号三〇五頁)、いわゆる全司法仙台事件についての右と同日の判決(刑集二三巻五号六八五頁)が述べるように、禁止されるべき争議行為の種類や態様についても、更にまた、違法とされるあおりの行為等の態様や範囲についても、おのずから合理的な限界が存するものと解すべきである。

2  国際人権規約等と本件各処分の違法性

わが国も批准している国際人権規約八条一項c号は、労働組合の自由に活動する権利を保障している(なお、同項d号はストライキ権を保障しているが、わが国は批准に当たつて同号について留保の宣言をしている。)。同条二項は、同条一項の権利の行使に関し、公務員について「合法的な制限を課することを妨げるものではない。」と定めているが、右制限は、ILOの理念に合致する内容のものであることを要し、ストライキ以外の争議行為を一律全面的に禁止することは右理念に反するものである。また、右にいう「公務員」とは「国の行政に携わる公務員」と解すべきであるから、原告川島及び同野沢のように調査・研究を職務とする者は、右にいう「公務員」に該当せず、その労働組合活動を制限されない。更に、同条三項はILO八七号条約が同条に優先する旨規定しており、わが国も同条約を批准しているところ、同条約三条は労働組合活動の自由を宣言しており、同条約には公務員に関する例外規定は存在しない。これらの条約に照らすと、ストライキ以外の争議行為の禁止規定は、労働組合活動の自由を阻害しない趣旨で解釈されるべきである。

本件職場大会は、ストライキと称して行われたものではあるが、業務の停廃を目的とした行為ではなく、また、現に業務の停廃も発生しなかつたのであるから、その実体は、労働組合の団結活動の示威であり、要求の正当性と切実性を誇示したものにすぎない。したがつて、本件職場大会は、右各条約で保障された組合活動の自由の範囲内の行動であるから、これに対して懲戒処分を科することは、右自由に対する侵害であつて、右各条約を侵犯し、憲法九八条二項に違反するものである。

3  人事院勧告の完全実施を要求する本件職場大会に国公法九八条二項を適用することの可否

(一) 人事院は、昭和二三年に設立されて以来、国家公務員の給与改善について勧告を行つてきた(ただし、昭和二九年から三四年までは基本賃金についての改定勧告はしていない。)が、政府は、昭和三四年まではこれに従わず、昭和三五年に至つて初めて勧告を実施したものの、人事院が同年五月一日にさかのぼつて実施するよう勧告していたにもかかわらず、その実施は同年一〇月からとされ、不完全なものであつた。その後もこのような不完全実施が続き、例えば昭和四一年以降の状況をみると、人事院はいずれの年も五月一日にさかのぼつて実施することを勧告していたにもかかわらず、政府の決定した実施時期は、昭和四一年が九月、昭和四二年が八月、昭和四三年が七月、昭和四四年が六月となつていた(なお、本件職場大会の翌年である昭和四五年から勧告どおり五月実施となり、昭和四七年から勧告自体が四月からとされ、同年以降四月実施が続いた。)。

本件職場大会の行われた昭和四四年は、人事院が、同年八月五日、国家公務員の給与を同年五月一日から一〇・二パーセント引き上げるよう内閣及び国会に勧告したが、内閣は、同年一一月一一日の閣議で、夏期一時金への跳ね返り抜きの六月実施を決定した。

本件職場大会は、以上のような人事院勧告が不完全にしか実施されない状況下において、最終的には公務員の賃金を決定する国会に向けて、直接的には使用者としての政府に向けて、人事院勧告の完全実施を要求することを目的として開催されたものである。

(二) 仮に、国公法九八条二項が憲法に違反しないとしても、それは、労働基本権の制限及び禁止に対する代償措置が制度的にも機能的にも十全な状態にあるときに限られると解すべきである(第1項(三)記載のILO結社の自由委員会の勧告も、この見解に基づいている。)。

本件職場大会が実施された当時は、代償措置としての人事院勧告が、前記のとおり、迅速公平にその本来の機能を果たさず、実際上画餠に等しい状況にあつた。このような状況下では、人事院勧告制度の正常な運用を要求して相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為を行うことは、公務員に憲法上保障された行為であつて、これに国公法九八条二項を適用することは許されない。そして、本件職場大会の目的及び態様は、いずれも右の憲法上保障された行為の範囲内にあるから、これに国公法九八条二項を適用して、その指導行為を問責の対象とした本件各処分は、違憲違法である。

4  出勤猶予時間内の職場大会と争議行為

出勤猶予時間ないし出勤簿整理時間については、各職場とも労使で確認されて久しく、職員の多くは出勤猶予時間の終わりの時刻ころに出勤しており、右時間帯には勤務は始まらず、もちろん就労命令は出ないし、その他何ら勤務上の問題が生じないものとして、労使双方の規範意識が形成、定着していた。

本件職場大会は、いずれも出勤猶予時間内に終了し、参加者らは終了後直ちに職務に就き、執務開始はむしろ平常のそれより早く、業務の正常な運営を阻害する事実もそのおそれも全くなかつたのであるから、国公法九八条二項にいう争議行為には該当せず、示威行為の一態様にすぎない。

このことは、同一日に同種の職場大会が行われた農林省において、出勤猶予時間内の行為が問責されていないことからも明らかである。

5  争議行為と懲戒処分

(一) 懲戒処分は、企業内の秩序、服務規律の確立、維持の必要性から、その違反に対して加えられる制裁であつて、それは、第一に、労務(労働力)が継続的に提供されて使用者の指揮命令下にあり、業務が正常に運営されている事態を前提としており、第二に、個々の労働者が使用者に対して労働を提供する個別的労働関係の次元で機能する、という性質のものである。

これに対して、争議行為は、第一に、労務を使用者の指揮命令を受ける関係から引き揚げるもので、元来業務の正常な運営が阻害されることを前提としている。第二に、争議行為は、労働組合が、その要求実現のため、構成員である組合員を団体意思によつて統括し、使用者に打撃を加えるために行う団体行動である。すなわち、組合員各自の個別的意思が団結を媒介として自主規範に従つた団体意思(個別意思の単なる集合ではない組合という集団の意思)を形成し、その団体意思に統御された団体行為が行われるのであり、しかも、その団体行為は多数の組合員の集団的行為によつてのみ実現されるのである。このように、争議行為は二重の意味で一個の集団的行為としてのみ評価の対象となるのであり、集団構成員個人や機関個人の行為としての法的評価は生ずる余地がない。

以上のように、争議行為は懲戒処分の前提とする行為類型に含まれないものであるから、争議行為を行い、又はこれを指導したことを理由に懲戒処分をすることはできない。

(二) (一)で述べたことは、一般組合員だけでなく、組合の幹部にも妥当する。国公法九八条二項後段所定の「あおり」、「そそのかし」等を行つたとして、組合幹部の責任を追及することが行われているが、右条項は、行為主体として「何人も」と規定しており、「職員は」としていないこと、及び違法な争議行為においてもそれに通常随伴する行為は処罰の対象とすべきでないことに照らすと、職員以外の第三者の行為についての規定と解すべきであるから、右のような責任の追及は誤つている。また、組合幹部として組合活動である争議行為を指導したことを理由に懲戒処分をすることは、国公法一〇八条の七にいう組合活動を理由とする不利益取扱いとなり、不当労働行為として許されない。

また、仮に国公法九八条二項後段の行為主体に職員が含まれるとしても、そこでの「あおり」等は、それ自体で客観的にみて、違法な争議行為の実行に対し現実に影響を及ぼすおそれがあり、それ自体右争議の原動力となるもので、現実に実行を誘発する危険があると認められる真剣さないし迫力あるものであることを要するから、原告らの行つた指令の通常の伝達等はこれに含まれない。

(三) 仮に、争議行為に参加し、又はこれを指導したことが懲戒処分の対象となり得るとしても、国家公務員が本来労働基本権を享有する者であること、及びその争議権の制限、禁止は、国民生活全体の利益の保障を目的とし、単なる職場秩序の維持を目的とするものではないことにかんがみると、懲戒処分を行うことが許されるのは、当該争議行為が、その目的、手段、態様に照らして違法性の強いものであり、当該公務員が具体的に重大な業務阻害行為を行い、国公法の定める懲戒処分制度の目的に照らして、使用者としての国の有する職場秩序維持のために、当該公務員の行為を懲戒の対象とすることに合理性がある場合に限られるというべきである。

本件職場大会は、前記のとおり、人事院勧告の完全実施要求という正当な目的の下に、整然と最高でも二九分間、しかも出勤猶予時間内に実施され、暴力その他の違法行為はもちろん、業務阻害行為もなかつたのであるから、これに参加し、又はこれを指導したことは、前記の基準に照らすと、到底懲戒処分事由となり得ないから、本件各処分は違法である。

6  不当労働行為

本件の処分事由として主張されている行為は、いずれも労働組合の団結維持のために必要最小限かつ不可欠の行為である。また、職場大会において指導的役割を果たすことは、職場団結のかなめとしての行為である。したがつて、これらの行為について処分をすることは、労働組合の団結の土台を崩すもので、不当労働行為といわざるを得ない。

また、本件職場大会は、出勤猶予時間ないしは出勤簿整理時間内に行われたものであるが、当局は、本件当日に限つて通常の勤務形態を変更し、出勤猶予時間を否認して就業命令を発したのである。これは、労働組合の集会に限つて通常と異なる取扱いをするもので、労働組合の団結を破壊するための不当労働行為といわざるを得ない。

7  懲戒権濫用

(一) 一般に、裁判所が懲戒処分の適否を判断するに当たつては、「懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきである。」とされている。しかし、この基準が司法判断の余地を狭く限定するものではないことは、多くの裁判例からみて明らかである。特に、争議行為を理由とする懲戒処分については、公務員が労働者性を有する以上、その労働基本権の制限は必要最小限度にとどまるべきこと、他の非行を原因とする懲戒とは本質的に異なること、当該争議行為を巡る対立当事者の一方である当局に懲戒処分の裁量を認めることは、適切な結果を望めず、第三者機関の判断が必要となること、及び懲戒処分によつて当該公務員が在職中のみならず退職後も不利益を受けることを具体的に検討し、具体的正義の実現を図らなければならない。

(二) 本件各処分は、次のとおり不当なものである。

第一に、全商工は、本件職場大会以前により長く勤務時間内に食い込む職場大会を行つてきたが、一度も処分されたことはなかつたし、本件職場大会後、これと同様の時間帯に職場大会を行つた場合については、処分はされるものの、被処分者数は、本件よりはるかに少なく、本件は異常な大量処分である。

第二に、本部の副委員長や書記長が処分を受けていないのに、分会委員長の多くが処分を受けていたり、同一集会で同様の行為を行つたにもかかわらず、処分内容が戒告と訓告に分かれているなど、被処分者間の処分の程度、内容に著しく公平を欠き、恣意的な処分である。

第三に、同一日に同種の職場大会を行つた農林省の労働組合関係の処分と比較すると、農林省当局が適用した基準に従えば、本件職場大会は処分の対象とされるほどのものではない。

第四に、本件各処分は、現場の当局者が納得していないにもかかわらず、大臣官房の決定した統一基準によつて行われたものであり、被処分者の行為に応じた責任追及をすることなく、下部役員の幹部責任を形式的に追及し、全商工の団結破壊を意図したものである。

第五に、本件各処分は、第1項(三)の国際的基準にも反するものである。

第六に、本件各処分は、懲戒処分のうちで最も軽い戒告ではあるが、三か月の昇給延伸を伴うものであり、これについての回復措置はないから、原告らは退職するまでこれによる不利益を受け続け、その累積額は、最も少額の原告福安でも約四七万円以上となる見込みであり、最も多額の原告木地では約九五万円に達する見込みである。しかも、この不利益は退職後の年金額にも及び、原告らの不利益は終身継続することとなる。また、原告野沢は、日本地質学会の副会長も務めたほどの優秀な研究者であるが、本件処分によつて、その処分撤回闘争に精力を割かれ、国立大学等望ましい研究環境の場に移る機会を失うなど、研究者としての時間的、精神的損害は重大である。このように本件各処分は苛酷なものである。

以上のような本件各処分の不当性にかんがみると、本件各処分は、裁量権濫用にわたるものとして、取り消さなければならない。

八  消滅時効中断の再抗弁

原告川島の被告国に対する損害賠償請求権は、本件処分の取消しを求める人事院に対する不服申立て及び裁判所に対する取消請求と請求の基礎を同一にするものであるから、損害賠償請求権の消滅時効は、同原告の人事院に対する昭和四五年二月一九日付け不服申立てにより、時効中断の効力を生じたものである。

九  消滅時効中断の再抗弁に対する認否

争う。

第三証拠<略>

理由

第一本案前の申立てについて

一  原告川島が、通産省に在職中、昭和四四年一二月二六日付けで被告工業技術院地質調査所長から戒告の懲戒処分を受けたこと、及び、その後同原告が昭和四九年五月一日付けで通産省を退職したことについては、当事者間に争いがない。

二  ところで、戒告は、職員が国公法八二条各号の一に該当する場合において、その責任を確認し、及びその将来を戒めるという処分である(人事院規則一二―〇(職員の懲戒)四条)から、戒告の処分それ自体の内容からすれば、職員が退職した後においてこれを取り消す法律上の利益が存在するか否か疑問がある。しかし、戒告処分を受けた職員は、次のような給与上の不利益を受けることとなつている。すなわち、給与法八条六項は、「職員が現に受けている号俸を受けるに至つた時から、一二月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは、一号俸上位の号俸に昇給させることができる。」と規定し、人事院規則九―八(初任給、昇格、昇給等の基準)三四条は、右昇給は、「昇給させようとする者の勤務成績について、その者の職務について監督する地位にある者の証明を得て」行わなければならず(同条一項)、「その他人事院の定める事由に該当する職員については、その勤務成績についての証明が得られないものとして取り扱うものとする」旨規定している(同条二項)。そして、<証拠略>によれば、「人事院規則九―八(初任給、昇格、昇給等の基準)の運用について」(昭和四四年五月一日、給実甲第三二六号)は、第三四条関係二項五号で、右の「その他人事院の定める事由に該当する職員」とは、「現に受ける俸給月額又はこれに相当する俸給月額を受けるに至つた日からその日以降を良好な成績で勤務したものとした場合に得られるその者の次期昇給の予定の時期までの間に、停職、減給又は戒告の処分を受けた職員とする」旨規定していることが認められる。また、前記人事院規則九―八の三七条一項は特別昇給について定め、三八条五号は、「懲戒処分を受け、当該処分の日から一年を経過しない職員」には、特別昇給の規定は適用しない旨規定している。

以上によると、戒告処分を受けた職員は、その後の直近の昇給予定時期において、当然に昇給を受けることができない法的地位に置かれ、また、処分後一年間は特別昇給の対象から除外されるという法的地位に置かれているということができる。そして、戒告処分が取り消されることにより、右のような法的地位から解放され、戒告処分のない状態で昇給又は特別昇給を期待し得る地位を回復することとなるのである。このような利益は、職員が退職したからといつて当然に失われるものではないということができる。

三  したがつて、原告川島の本件処分及び本件判定の取消しを求める請求は、同原告が通産省を退職したことによつては、訴えの利益を失うものではないと解すべきであるから、被告らの本案前の申立ては理由がない。

第二認定した事実関係

一  請求原因第1項ないし第3項の各事実(原告らの地位と本件各処分及び本件各判定の存在)については、当事者間に争いがない。

そこで、本件各処分及び本件各判定の効力を検討するに先立ち、以下、本件職場大会に至る経緯、本件職場大会の実施状況等につき、事実関係を認定する。

二  本件職場大会に至る経緯

1  全商工の組織と全商工における原告らの地位

全商工並びにその下部組織である本省支部、関信支部、桐生繊検分会、東京通産局分会及び地質調査所分会の組織が抗弁第1項ないし第6項の各(一)記載のとおりであり、本件職場大会当時の原告らの全商工における地位が同第8項(一)記載のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

そして、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

全商工の最高意思決定機関は全商工大会であり、それに次ぐ意思決定機関は中央委員会である。また、支部の最高意思決定機関は支部大会であり、分会のそれは分会大会又は分会総会である。中央執行委員会は、全商工大会及び中央委員会の決定を執行する責任を負い、全商工の日常業務を行うものである。支部又は分会の執行委員会は、それぞれの大会等で決定された方針を執行する責任を負い、支部又は分会の日常業務を行うものである。右の各執行委員会は、それぞれの(執行)委員長、(執行)副委員長、書記長及び執行委員で構成されており、(執行)委員長がこれを主宰するとされている。したがつて、全商工本部、支部及び分会の各執行委員会における決定や、その業務の執行については、特段の事情がない限り、各執行委員会を構成する右の地位にある者全員が参画している。全商工はいわゆる単一組織であつて、中央で決定された方針は支部及び分会を拘束する。

2  昭和四三年以前の人事院勧告の実施状況

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

人事院は、昭和二三年以降四三年に至るまで、昭和二九年を除き毎年、国家公務員の給与を改定(引上げ)すべき旨勧告していたが、当初は勧告内容自体も完全には実施されず、昭和三〇年代には内容についてはおおむね勧告どおりに実施されるようになつたものの、その実施時期は、昭和二五年から四一年まで、いずれも勧告の発せられた後となつており、勧告発出以前にさかのぼつて実施されたことはなかつた。殊に昭和三五年以降は、人事院が、勧告の基礎となる官民給与の較差を毎年四月の時点で調査していることを理由に、当該年の五月一日にさかのぼつて勧告を実施すべき旨を明記していたにもかかわらず、昭和三五年から三八年まではそれぞれ一〇月一日から、昭和三九年から四一年まではそれぞれ九月一日から実施されたにすぎず、昭和四二年からは勧告発出より以前にさかのぼつて実施されるようになつたものの、昭和四二年が八月一日から、昭和四三年が七月一日からそれぞれ実施されたにすぎず、いずれも勧告に明記された実施時期どおりには実施されなかつた。

このように実施時期が勧告のそれよりも遅れることは、人事院勧告が完全には実施されていないことを意味し、国家公務員に実質的な不利益を与えることから、国家公務員の間に強い不満があつたのはもちろん、各方面で問題視されていた。こうした中で、昭和四三年には、公務員共闘に属する者九名が東京地方裁判所に人事院勧告実施時期の不完全履行を理由とする国家賠償請求訴訟を提起し、全商工からも一名がその原告に加わつた。また、全商工は、同年一二月一八日、政府が人事院勧告の実施時期を遅らせることは不当に低額な人事院勧告を更に値切るものであるとして、これに抗議する早朝勤務時間外の職場大会を開催した。

政府もまた、同年の人事院勧告実施問題についての閣議で、実施時期の問題を「昭和四四年度予算編成時までに結論を得ることを目途に合理的改善を加えるよう検討するものとする」旨決定したが、この年の勧告実施時期は前年並みの八月一日とする旨の給与法改正案を作成して国会に提出した。しかし、国会における審議の過程で、実施時期は一か月繰り上げられて同年七月一日とされ、右法案を審議した衆参両院の内閣委員会は、これを可決する際、政府に対し翌四四年度から人事院勧告の完全実施に努めるべきであるとの附帯決議を行つた。

3  昭和四四年の人事院勧告を巡る状況

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

人事院は、昭和四四年八月一五日、国家公務員の基準内給与を同年五月一日にさかのぼつて平均一〇・二パーセント引き上げることなどを内容とする勧告を行つた。右人事院勧告について、朝日、読売及び毎日の各新聞は、同年八月一六日の朝刊で、いずれも右勧告の完全実施を政府に要望する旨の社説を掲載した。また、全商工は、同月一五日、右勧告は非常に低額で不満ではあるが、九年ぶりに一〇パーセントを超える勧告を出させた点で闘いの成果と評価できること、しかし、政府は前年同様右勧告を値切るものと思われるので、闘いを強化しなければならないことなどを内容とする声明を発表した。

右勧告を受けて、政府は、度々給与関係閣僚会議を開くなどしてこの取扱いを検討していたが、同年一一月一一日に至るまで明確な方針を発表したことはなく、一般には、財政担当者を中心として前年並みの七月実施が妥当であるとの意見があるとか、閣僚の中にも七月実施が妥当であると考える者がいるなどと報道されていた。

そして、政府は、同年一一月一一日の閣議で、右勧告のとおり給与の改定を行うが、その実施時期は同年六月一日とし、ただし、同年六月に支給した期末手当及び勤勉手当には右改定規定を適用しないこと、右改定に必要な関係法律の改正案を次期国会に提出することなどを決定するとともに、同日、「公務員の処遇については、政府として、従来より特に意を用いてきたところである。(中略)昭和四五年度にはいかなる困難があろうとも完全実施する。」との内閣官房長官談話を発表した。

4  全商工における本件職場大会実施のための体制の確立

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

全商工は、昭和四四年八月一九日から二二日まで、静岡県伊東市において第三三期定期大会を開催し(この事実については、当事者間に争いがない。)、当面の闘争方針として、「秋の賃金闘争の山場には、賃金要求前進とスト権奪還を中心に、国公、公務員共闘に結集し、ストライキを配置してたたかい、勤評、昇格、職場諸要求と佐藤訪米、安保沖縄などの国民的課題もあわせてたたかつていくこと」を確認し、同月二六日付けで本部指令第一号を発して、傘下の各支部に対して右闘争方針の実施を指令した(指令発出の点については、当事者間に争いがない。)。原告川島は、全商工中央執行委員長として、右定期大会に参加し、闘争方針の決定及び本部指令第一号を発出することの決定に参画し、自己の名義で右指令を発した。

また、全商工もその一員として加盟している国公共闘は、同年九月二三日の拡大評議員会で、当面の統一賃金要求として、「一賃上げは五月から実施すること、二 賃上げにあたつては、〈1〉最低引き上げ四〇〇〇円を保障すること、〈2〉扶養手当は被扶養者のすべてに七〇〇円増額すること、〈3〉期末手当増額は〇・二か月とすること、〈4〉住宅手当を支給すること、〈5〉行政職(二)表をはじめ、すべての俸給表の昇給間差額は一五〇〇円未満をなくすこと、〈6〉通勤手当は全額実費支給とすること、三 高令者に対する昇給ストツプをはじめ賃金体系の改悪を行わないこと。」の八項目の要求を確認した(この確認の点については、当事者間に争いがない。)。右要求は、第一項を除き、同年の人事院勧告の水準を上回るものであつたが、国公共闘は、これを「人勧後すべての国公労働者が生活改善のために政府に要求する絶対にゆずることのできないぎりぎりの要求であり、実力行使をかけてたたかいとる要求である。」とし、政府が右要求をいれず、誠意を示さない場合は、ストライキ権回復の闘争と結合して同年一一月一三日に「二九分以内の早朝時間内にくい込む職場大会」を実施する、という実力行使の方針を決定した。

国公共闘の右決定を受けて、全商工は、同年九月二五日の中央執行委員会総会で、それまでに全商工組合員に対して行つたアンケートの結果も考慮して、国公共闘の前記八項目の要求を全商工としての当面する統一賃金要求とする旨決定し、全商工の実力行使戦術として、同年一一月一三日に、大臣訓令によつて時差出勤の認められている職場は午前九時三〇分まで、時差出勤の認められていない職場は午前八時五九分までの「早朝(出勤猶予時間内くい込み)職場大会」を実施すること、及びその前日の一二日朝から一三日の実力行使終了時まで組合員全員がプレート行動を実施する旨決定した(右各決定の事実については、当事者間に争いがない。)。原告川島は、全商工中央執行委員長として右総会に参加し、右各決定に参画した。

そして、全商工は、同年九月二九日付けで、傘下の各支部に対し、本部指令第一号を具体化する趣旨で本部指令第四号を発し、右中央執行委員会総会で確認された事項の実施を指令した(この点については、当事者間に争いがない。)。原告川島は、中央執行委員長として右指令発出の決定に参画し、自己名義で右指令を発出した。本部指令第四号には、個々の組合員に実力行使に参加するか否かを問う趣旨の一票投票(実力行使参加決意表明署名)を実施することが含まれていた。これは、本部で作成した用紙を組合員に配布し、実力行使に賛成する組合員に記名させて、実力行使への参加の決意表明をさせるものであり(ただし、例えば、本省支部では独自の用紙を用い、無記名式で出勤猶予時間内職場大会の開催に賛成するか反対するかを問う形で行うなど、その形態は支部、分会によつて異なつていた。)、同年一〇月二二日から実施された。この一票投票の結果は、同月三一日現在で、全商工全体では六八〇六名(組合員の六七・三パーセント)、本省支部では二五五六名(同六一パーセント)、関信支部では一七九五名(同六六・八パーセント)が実力行使に参加する意思を表明した。全商工では、前記定期大会において、「一票投票の結果圧倒的多数の支持が得られれば」「戦術行使に突入する。」とし、本部指令第一号でも、一票投票で体制確立が得られない場合は可能な戦術をとるとするなど、一票投票の結果を重視していたが、右の結果については、特に本省、関信の両在京支部で予想以上の高率の支持を得たとして、高く評価した。

5  本件職場大会以前における当局と全商工との交渉等

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

全商工は、昭和四四年九月二六日、大平通産大臣と交渉し、その席上前記統一賃金要求を記載した要求書を提出した(この点は、当事者間に争いがない。)。右要求書は、全商工中央執行委員長としての原告川島名義で通産大臣にあてたもので、人事院勧告が出されたことを前提として組合員の意思を統一して右要求を決定したこと、及び「政府がこの要求を容れず、誠意を示さないならば、二〇〇万公務員労働者とともに、全商工労働組合の総力を結集し、重大な決意をもつてたたかいぬくことを明らかにする」旨の記載を含んでいた。また、右交渉の際、全商工側は、「今まで国公労働者はストライキをやつていない。我々は政府が誠意ある態度を示さない場合、重大決意で闘うが、その場合のすべての責任は政府にある。」と述べ、これに対し、大平通産大臣は、人事院勧告の「実施時期は、まだ結論の出る状況でない。」、「私としては勧告の線が妥当と思う。政府の一員として完全実施ということで考えている。」と述べた。

その後、通産大臣官房の増田実秘書課長は、同年一〇月二一日、全商工の師岡中央執行副委員長及び岩田書記長に対し、全商工が同年一一月一三日に予定している勤務時間内食い込み早朝職場大会は違法であるとして、大会を勤務時間前に終了するよう要望するとともに、万一集会が予定どおり勤務時間内に食い込んで行われた場合には、厳重に処分をせざるを得ない旨通告した。更に、当局は、同年一〇月二三日付けで「職員の皆さんへ」と題する次官文書を通産省の職員全員に配布した(右配布の事実については、当事者間に争いがない。)。次官文書には、勤務時間内に食い込む職場大会は明らかに国公法で禁止された争議行為であり、「このような違法な職場大会には絶対に参加しないようにして下さい。」、「職員の給与の改善については、当局としても出来る限り努力しております。職員の皆さんの自重を切望してやみません。」との記載があつた。これとは別に、総理府総務長官が、同日付けで、本件職場大会を含む公務員共闘の統一ストライキについて、公務員はいかなる場合も争議行為をしてはならないから、右のような政治的目的を併せ有するストライキ宣言を発することは遺憾であるとし、公務員共闘及びその傘下の団体や公務員に対して自重を求める談話、及び公務員共闘議長に対する同旨の警告書を発していた。通産省当局は、右談話及び警告書についても職員らに周知させるとともに、全商工の岩田書記長にそれらの写しを交付して自重を求めた。

これに対し全商工は、同日、闘争宣言を発し(この点については、当事者間に争いがない。)、その中で、次官文書は全商工に対する脅迫がましい警告であつて、正当な労働組合活動に対する不当な干渉であるとし、前記統一賃金要求の正当性を強調するとともに、「もし政府が、このぎりぎりの要求にたいしてまつたく誠意を示さず、不当な態度をとりつづけるならば、わが全商工労働組合は、政府に猛省をうながすため、安保条約廃棄、沖縄全面返還を中心課題として全労働者が決起する一一・一三統一行動日に、公務員共闘二〇〇万の仲間とともに、断固として統一ストライキをたたかう決意である」旨を明らかにした。原告川島は、全商工中央執行委員長として、右闘争宣言の発出の決定に参画した。更に、全商工は、同年一〇月三一日、被告事務次官ら当局者と交渉し、次官文書について抗議するとともに、本件職場大会は、最高裁判所の判決に照らし、国公法に違反しない争議行為であると主張した。しかし、当局側は、組合員らが一斉に勤務時間内に食い込む争議行為を行うことは、国民生活に重大な支障を及ぼすから、国公法で禁止された争議行為に当たるとして譲らず、双方の主張は平行線をたどつた。その後、全商工は、同年一一月七日、大平通産大臣と交渉して、人事院勧告の完全実施に努力するよう重ねて要求し、右要求が実現しなければ断固として時間内食い込み職場大会を実行する旨主張した。これに対して大平通産大臣は、人事院勧告の完全実施には努力するが、時間内食い込みの職場大会はしないよう要望した。

以上のほか、当局は、増田秘書課長において、同月一一日に全商工幹部らに対し、翌一二日には全商工本部の師岡副委員長と岩田書記長に対し、それぞれ同月一三日の職場大会は必ず勤務時間前に終わるよう要望し、同月一二日には再び前同旨の次官文書を作成し、各庁舎内に掲示してその趣旨を職員らに周知させた。また、内閣官房長官は、同日、公務員は法律によつて一切の争議行為を禁止されているから、違法なストライキを行わないよう、関係組合員の自省自戒を強く要望する旨の談話を発表し、右談話は一般報道機関を通じて広く報道された。

6  全商工の教宣活動について

全商工が抗弁第1項(四)記載の全商工新聞を発行、配布したことについては、当事者間に争いがなく、右事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

全商工は、以上に記載した本部等における決定や当局との交渉内容を逐次、次のとおり全商工新聞に掲載して、これを組合員らに配布して周知させるとともに、本件職場大会に積極的に参加するよう呼び掛けた。

(一) 昭和四四年九月五日付け六九二号で、第三三期定期大会について、「私たちは、いままでの闘いを更に発展させ更に政府を追い込み、要求を前進させなければならないし、その実現はこんごの私たちの闘いいかんにかかつている。さる全商工定期大会では、賃金要求をはじめ、諸要求を解決するため、『秋期闘争方針』をきめ、秋の賃金闘争の山場では、賃金要求前進とスト権奪還を中心に、国公、公務員共闘に結集して、迫力ある実力行使を配置して闘うことにした。」と報道した。

(二) 同月一五日付け六九三号で、右大会での大会宣言を掲載するとともに、「大会決定をただちに実践し、迫力ある実力行使を成功させよう。」と呼び掛けた。

(三) 同月二五日付け六九四号で、国公共闘の決定について、「国公共闘会議は、臨時拡大評議員会を開き、秋季、年末闘争の最大の山場を一一月一三日の統一行動日とし、戦術は早朝始業時から二九分以内の勤務時間内に食い込む職場大会とすることを決定した。」、これは「画期的な意味を持つ時限ストである。」と報道した。

(四) 同年一〇月一日付け「号外、職場討議資料」で、前記統一賃金要求を掲載し、「全組合員のみなさん、この秋の闘い、とりわけ一一月一三日に行われる統一ストライキを成功させるために、この討議資料をもとに、すべての職場で、ひとりももれることなく、しつかりとした意思統一を行つてください。闘いに確信をもち、一万人の団結を一層かため、堂々と前進しましよう。」と呼び掛けた。

(五) 同月一五日付け六九六号で、政府の人事院勧告の取扱いについて報道し、「一一・一三を成功させるためには、それぞれの職場の実情にあつたやり方で職場討議をくりかえし組織して、参加者が積極的に発言できるようにしてゆくことが大切です。」と主張した。

(六) 同月二二日付け六九七号で、一票投票について、「全商工が一〇月二二日から全組合員を対象に行う一一・一三統一行動参加決意表明署名を一人もれなく投票しよう。」、「一一・一三実力行使の成功めざし青年婦人は闘いの中核となろう。」と呼び掛けた。

(七) 同月二九日付け六九八号で、全商工の闘争宣言を掲載して、「わたしたちは、いまこそ、当面する八項目の統一賃金要求の正当性を前面にかかげて、労働基本権をみずからのものとして闘う階級的自覚を高めて行くことが重要です。」と呼び掛けた。

(八) 同年一一月五日付け六九九号で、「政府がことしもまた人事院勧告を値切ろうとするなら、やむにやまれず実力行使をもつて政府に猛省をうながす決意でおります。」と報道した。

(九) 同月一二日付け七〇〇号で、一票投票の結果を報道し、「当局の不当な干渉を断固として粉砕して一一・一三を成功させうる客観的条件がことしの場合はとくに大きいということができます。」と主張した。

全商工新聞は、全商工の教宣部が編集して、全商工労働組合の名で発行されるものである。全商工の規約上、全商工の日常業務は中央執行委員会が行うとされ(三二条一項)、中央執行委員会に、その事務を遂行するため、書記局を置き(三七条一項)、中央執行委員会が必要と認めたときは、書記局に専門部を置くことができるとされており、教宣部は右にいう専門部の一つとして設置されている。

7  本件職場大会実施の決定

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

以上のような情勢の下で、前記3のとおり、同年一一月一一日、人事院勧告の実施に関する閣議決定が行われた。これに対し、全商工は、翌一二日の夜に中央執行委員会を開き、予定どおり本件職場大会を開催することを決定し、その旨傘下の各支部に指令した。全商工としては、次のような理由により、本件職場大会は国公法によつて禁止される争議行為ではないと考えていたが、もし人事院勧告が完全に実施されるならば、少なくとも勤務時間内に食い込む職場大会は行わない方針であつた。しかし、右閣議決定は人事院勧告を完全に実施するものではなかつたため、全商工は右のような決定をした。

(一) 当時は、公務員の争議行為禁止規定を制限的に解釈する判決が相次いで出されていた。すなわち、いわゆる全逓東京中郵事件についての最高裁判所大法廷判決(昭和四一年一〇月二六日・刑集二〇巻八号九〇一頁)が、公共企業体等労働関係法の適用を受ける郵政省職員の争議行為について、「争議行為が労働組合法一条一項の目的を達成するためのものであり、かつ、たんなる罷業または怠業等の不作為が存在するにとどまり、暴力の行使その他の不当性を伴わない場合には、刑事制裁の対象とならないと解するのが相当である。もし争議行為が政治的目的のために行われた場合、暴力を伴う場合、社会の通念に照らして不当に長期に及ぶときのように国民生活に重大な障害をもたらす場合は、正当性の限界をこえ、刑事制裁を免れない。」と判示した。また、いわゆる都教組事件についての最高裁判所大法廷判決(昭和四四年四月二日・刑集二三巻五号三〇五頁)も、右と同一の基本的立場に立つて、地方公務員の争議行為に対して刑事罰を科することを制限する判断を示し、いわゆる全司法仙台事件についての最高裁判所大法廷判決(昭和四四年四月二日・刑集二三巻五号六八五頁)も、国家公務員についてこれと同様の判断をしていた。これらは、いずれも刑事事件に関する判決であり、争議行為に対する懲戒処分の関係でも制限的に解釈すべきか否かについては何らの判断も示していないが、全商工としては、これらの判決の示した基本的な考え方は懲戒処分の場合についても妥当すると判断し、争議行為の目的が正当であり、政治的目的のために行われたものではなく、暴力行為を伴わず、かつ、国民生活に重大な障害を来さない場合には、当該争議行為を行つたことについて懲戒処分を科することは許されず、その意味で当該争議行為は適法であると考え、右の適法性の認められるものとして本件職場大会を計画した。

(二) 通産省における勤務開始時刻は、原則として午前八時三〇分とされていたが、本省など大都市部に所在する官署に属する者については、大臣訓令によつて勤務開始時刻を遅らせる措置がとられ、その大部分の者について午前九時一五分とされていた。したがつて、通産省職員の勤務開始時刻は、午前八時三〇分又は午前九時一五分の二通りに大別されるのであるが、午前八時三〇分を勤務開始時刻とする官署においては午前九時までに出勤すれば遅刻扱いとはせず、午前九時一五分を勤務開始時刻とする官署においては午前九時三〇分までを出勤簿整理時間とし、その時刻までに出勤して出勤簿に押印すれば遅刻扱いとしない、との取扱いが定着していた。そのため、職員らの多くは、勤務開始時刻は事実上、それぞれ午前九時又は午前九時三〇分であると意識しており、実際上各官署の業務開始時刻も右各時刻以降となつていた。そこで、全商工は、右各時刻以前に職場大会を終了させるならば、たとえ正規の勤務時間内に食い込んだとしても、業務への支障、ひいては国民生活への重大な障害は生じないと判断した。

また、本件以前においても、全商工は、昭和三三年から三六年にかけて一〇回にわたつて勤務時間内に食い込む職場大会を行つており、そのほとんどは前記の実際上の勤務開始時刻をさえ超えるものであつたが、それらについて、刑事罰はもちろん、懲戒処分も科されたことはなかつた。

(三) 全商工としては、本件職場大会の目的は、前記4のとおり、賃金要求に限られているから、労働組合法一条二項にいう正当な目的に基づいており、政治的目的のために行われるものではなく、(二)のとおり、国民生活に重大な障害を及ぼすものではないから、暴力行為を伴わず整然と実施する限り、前記各判例の趣旨に沿つた適法な争議行為になると判断した。

三  全商工全体における本件職場大会の実施状況

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

全商工本部の指令に基づき、昭和四四年一一月一三日、後記のとおり本省支部が支部の統一集会を開催したほか、二八の分会が三三か所において職場大会を開催し、合計三〇〇〇名を超える組合員がこれに参加した。これらの職場大会は、正規の勤務時間内に約五分ないし約二九分食い込むものではあつたが、全商工本部の指令した時刻を超えて行われたものはなく、いずれも整然と行われ、暴力行為を伴つたものはなく、職場大会の開催によつて具体的な業務上の支障が生じたとの報告は全くなかつた。

四  全商工本省支部における本件職場大会の概況

1  本省支部における本件職場大会実施体制の確立と当局の対応

抗弁第2項(二)の(1)ないし(5)の各事実、通産省本省において午前九時三〇分までが出勤簿整理時間とされていたことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

本省支部は、昭和四四年九月二九日から一〇月一日までの間に開催された本省支部執行委員会において、本部指令第四号に基づき、秋から年末にかけての闘いの進め方についてその戦術を具体化し、賃金要求の実現、昇格を中心とする職場要求の実現等の目的で、本件職場大会を本省支部統一集会として本省中庭で行うこと、その時間は午前八時三〇分から九時三〇分までとすること、右当日は強力な説得ピケを配置すること、及び組合員はその前日及び当日の勤務時間中に要求事項を記載したプレート又はリボンを着用することを決定した。本省支部は、同年一〇月一日付けの本省支部指令第九号で、傘下の各分会委員長に対し、右決定について指示するとともに、同月二二日から二八日にかけて一票投票を行うことを指示し、各分会では右期間中に一票投票が行われた。

原告木地は本省支部執行副委員長として、原告泉部は同支部書記長として、それぞれ右執行委員会の決定及び本省支部指令第九号の発出に参画した。

これに対して、当局は、同月二二日、竹村官房審議官が、原告木地及び同泉部ら本省支部役員に対し、勤務時間内に食い込む職場大会は違法であり、万一これが実行されたときは懲戒処分もあり得るなどと警告した。しかし、本省支部は、第一に、憲法及び国公法の解釈並びに社会通念に照らして右警告は納得できない、第二に、職場大会は要求が実現されれば中止することもあり得るから、当局は人事院勧告の完全実施を決定し、職場要求に対し納得できる回答を出すよう努力されたい、などと反論した。なお、本省支部は、前記二5のとおり右警告に先立つて秘書課長が全商工本部に対して同旨の警告を行つたことに反発して、同月二一日付けで「違法行為を行つているのは当局である。」との支部執行委員会名の声明を発し、本件職場大会が憲法上許された行為であり、それまで政府が一度も人事院勧告を完全には実施していないことこそ違法である旨主張し、これを翌二二日付けのビラに掲載して組合員に周知させ、組合員に本件職場大会への参加を呼び掛けた。

更に、当局は、同日から翌二三日にかけて、本省支部傘下の各分会執行部に対して、各分会に対応する各局等の庶務課長等を通じて同旨の警告をし、同日から翌二四日にかけて、前記二5の次官文書を職員全員に配布した。しかし、本省支部では、組合員に対し、右文書は不当な警告であり、黙つて受け取ることは危険であるから、一枚残らず分会委員長に渡すよう呼び掛け、分会によつては、委員長がこれをまとめて所属部局の庶務課長等に返却したところもあつた。原告木地及び同泉部は、それぞれ本省支部の役員として、次官文書の返上指導に関する意思決定に参画した。

本省支部は、同月二五日、前記全商工の統一賃金要求八項目のほか、国家公務員の労働基本権を認めること、昇格、昇給を改善すること、民主的かつ公平な人事を行うことなど合計一〇〇項目からなる要求を取りまとめ、これを記載した要求書を被告事務次官あてに提出した。右要求書には、右要求事項について同年一一月一三日までに納得できる回答が得られない場合は、本省支部はその組織の全力を挙げて闘い抜く決意であり、そのことによつて起こる混乱の一切の責任は通産省当局が負うべきである旨記載されていた。

しかし、当局は、本省支部を満足させるに足りる回答をしなかつた。すなわち、前記のとおり、人事院勧告の取扱いに関する閣議決定は、全商工の統一賃金要求を全面的に実現するものではなかったし、その他の要求事項については、当局は、同年一一月七日に事務次官をはじめとする通産省幹部の人事異動があつたこともあつて、右期限内に交渉することにすら応じなかつた。

このような状況の下で、本省支部は、同年一〇月三一日及び一一月一日の両日、本省支部第二一期一一月定期大会を開催し、この大会において、前記のとおり一票投票によつて本件職場大会の開催につき高率の支持が得られたことを前提として、「断固として十一・一三統一ストライキを闘い抜こう」とのスローガンを掲げて本件職場大会の実施を最終的に確認し、この結果を同月一日付けの「闘争ニユース」第四号に掲載して組合員らに配布し、組合員らの意思統一を図つた。また、同月一二日には、支部執行委員会において、「職場大会参加要領」として、組合員の当日の通路及び出入口を指定するとともに、通産省職員以外の部外者(新聞記者等)には通行証を発行し、右通行証を持参している者及び管理職員以外の者は、当日午前九時三〇分までは庁舎に入らせないことなどを決定し、これを同日発行の「闘争ニユース」第六号に掲載して組合員らに配布し、周知させた。

原告木地及び同泉部は、それぞれ本省支部の役員として、右支部定期大会の決定及び支部執行委員会における「職場大会参加要領」の決定に参画した。

これに対して、当局は、同日被告事務次官の発した前記二5の次官文書と同旨の書面を本省庁舎内の多数の掲示板に掲示して警告を行つた。

右のように本件職場大会の実施を決定するに当たつて、本省支部は、前記二7の全商工本部の見解と同様の理由により、本件職場大会が国公法で禁止される争議行為に当たらないと判断していた。すなわち、本省支部所属の者の勤務開始時刻は、前記大臣訓令により、運転手など特殊な勤務の者を除く大部分の職員について午前九時一五分とされていたが、午前九時三〇分までは出勤簿整理時間とされ、当局も右時刻までに出勤した者については遅刻扱いをしないこととしていた。実際の運用は、出勤簿はおおむね各課ごとに置かれ、午前九時三〇分を過ぎても直ちに引き揚げられるところは少ないため、午前九時三〇分をやや過ぎて出勤しても遅刻扱いされることは少なく、結局勤務が開始されるのは午前九時三〇分以降となつていた。そこで、本省支部は、大臣訓令上の勤務開始時刻以降に本件職場大会が食い込んだとしても出勤簿整理時間内に終了すれば、業務への支障は原則として生じないと判断し、ただ、午前九時ころから窓口業務を行つている特許庁については、その部署に保安要員を配置することとし、そのほか庁舎管理のためにも保安要員を配置するなどして不測の事態に備えた。また、当局への要求事項も前記のとおり政治的スローガンを含まないものとするなど、前記最高裁判所の判例の趣旨に従い、違法でないと考える範囲の行為にとどめることに努めた。そして、本省支部は、当局に対して、本件職場大会が国公法によつて禁止されないものであると主張するとともに、同年一一月一一日付けの「闘争ニユース」第五号に、「九時三〇分までの職場大会は処分することができない」との見出しの下に、この点に関する本省支部の見解を記載し、これを組合員に配布して周知させた。

2  本省支部の教宣活動

本省支部が抗弁第2項(二)(6)のとおり「しぶニユース」等を発行、配布したことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

本省支部は、前記の昭和四四年一〇月二二日付けのビラ及び「闘争ニユース」第四ないし第六号のほか、同年一〇月初めから一一月一二日までの間に、秋期闘争方針を周知徹底するとともに本件職場大会実行の必要性を訴え、これへの参加を呼び掛ける趣旨で、次のような「しぶニユース」及び「闘争ニユース」を配布した。

(一) 同年一〇月六日付け「しぶニユース」二一―二六号で「それぞれの職場で自らの要求に基づいたストライキ行動を一人残らず考え、全員で職場討議をしよう。一一・一三出勤猶予時間食い込みの早朝職場大会を成功させよう。」と主張した。

(二) 同月二三日付け「しぶニユース」号外で「組合員のみなさん、本省支部に団結を固め、一一・一三の大成功によつて当局の警告に答えようではありませんか。」と主張した。

(三) 同月二四日付け「しぶニユース」二一―二九号で「当局の悪質な攻撃を職場からはね返し、一一・一三早朝職場大会を断固成功させ、実施時期に結着をつけましよう。」と主張した。

(四) 同月二五日付け「しぶニユース」二一―三〇号で「我々は断じて値切りは許せません。今こそ組合員一人一人の団結が必要です。完全実施をさせる力は組合員一人一人にかかつています。」と主張した。

(五) 同月二八日付け「しぶニユース」二一―三一号で「われわれは八項目の要求を堅持し、要求が解決されない時は実力行使をもつて闘う決意です。」と主張した。

(六) 同日付け「闘争ニユース」第一号で、一票投票の結果につき「官房分会先頭きつて八一パーセントで批准、その他の分会これにつづく」と報じた。

(七) 同年一一月六日付け「闘争ニユース」第三号で「要求前進へあと一歩、六月実施は見えてきたが政府に誠意なし」と報じた。

(八) 同月一〇日付け「しぶニユース」二一―三三号で「一一月一三日の時間内職場大会についての一票投票は、賛成が圧倒的に多く、全分会で過半数の支持を得た。」と報じた。

(九) 同月一二日付け「しぶニユース」二一―三六号で「全商工は、既定方針どおり、時間内職場大会を決行します。四・二判決と二〇〇万公務員労働者の団結に確信を持ち、いささかもひるむことなく闘い抜きましよう。」と主張した。

これらは、いずれも本省支部の教宣部が作成して、本省支部の名で発行、配布したものであつて、「しぶニユース」は闘争時に限らず日常的に発行されており、一方、「闘争ニユース」は本件職場大会に向けて特に発行されたものである。本省支部の規約によると、支部執行委員会に専門部を置くことができるとされており(一八条一項)、教宣部は専門部の一つとして支部執行委員会に置かれているものである。

3  本省支部における本件職場大会の実施状況

抗弁第2項(四)記載の事実のうち、被告ら主張の日時、場所において本件職場大会が開催されたこと、その際の全商工役員らの発言内容とその順序(ただし、調査統計分会委員長の決意表明と原告福安のそれとの先後の点を除く。)については、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、<証拠略>中この認定に反する部分はたやすく信用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

本省支部は、本件職場大会当日、午前八時三〇分以前から、会場である通産省本省中庭に演壇を設けてマイクを設備し、その背後の庁舎壁面に大会名やスローガンを記載した横断幕などを張り出し、本省の六か所の出入口にそれぞれ組合員一〇名ないし一五名を配置して、登庁してくる職員に職場大会への参加を呼び掛けた。午前八時四〇分ころ、三〇〇名を超える組合員が中庭に参集したところで、原告泉部が開会を宣し、以後同原告の司会で本件職場大会が行われた。参加者は、開会後も増え続け、最終的には七〇〇名を超えた。

開会後、伊藤本省支部執行委員長、原告川島及び原告木地が順次演壇に立つて発言したが、その演説の要旨は次のとおりである。

(一) 伊藤本省支部執行委員長

「我々は、人事院勧告の完全実施を強く要求していたのにこれが値切られたことに強い憤りを覚え、大会を開くに至つた。我々の要求は三〇〇項目もある。これを当局は至急解決すべきである。」

(二) 原告川島

「当局は、人事院勧告の完全実施等を含む我々の諸要求に対し、努力を怠るばかりか、一〇月二三日には、事務次官名をもつて我々組合員に警告文を出してきた。これに対して我々は断固として反撃を加えた。我々の生活を脅かす安保条約を破棄し、沖縄の全面返還に努力しよう。」

(三) 原告木地

「今朝は全農林、全運輸の仲間も行動に移つている。これまで行われた一票投票では八二パーセントの投票中、八一パーセントの職場大会参加の賛成を得た。全分会が過半数の賛成であつた。我々の諸要求は三〇〇項目にもなる。これは当局が問題を解決しないからである。」

これらの発言に続いて、本省支部傘下の分会委員長らが、特許庁分会、官房分会(原告福安)、調査統計分会、通商分会(原告細貝)の順で、それぞれ決意表明の演説を行つた。

このような状況で、前記大臣訓令所定の勤務開始時刻である午前九時一五分近くになつても、職場大会は終了する様子が見られなかつた。そこで、当局では、組合員らに解散を命じるため、竹村官房審議官が、午前九時一四分ころ、被告事務次官名による伊藤本省支部執行委員長あての解散命令書を携えて庁舎内から中庭へ赴こうとしたが、中庭への入口付近に待機していた三、四名の組合員らに中庭へ入ることを拒まれ、やむを得ず引き返した。

そこで、午前九時一六分ころ、植田人事専門職が、官房長室から中庭に向けて設置した拡声機により、「ただいま九時一五分を過ぎ勤務時間です。本省支部委員長に対し、事務次官より解散命令が出されています。組合が現在開催している職場大会は違法であり、かつ、勤務時間中における中庭の使用は許可していないから、直ちに解散しなさい。」との放送を二度繰り返したが、組合はこれを無視して大会を続行した。更に、午前九時一八分ころ、官房長室から就業命令を記載した懸垂幕を垂らして大会参加者に対し就業命令の発せられたことを明示するとともに、植田人事専門職が、拡声機で「大会に参加している職員に対し、事務次官より就業命令が出されています。皆さんの参加している職場大会は違法であるから、直ちに解散し、就業しなさい。」との放送を二度繰り返した。これに対し、大会の司会をしていた原告泉部は、大会参加者に向かいマイクで、「皆さんあの窓を見てください。当局は今不当にも解散命令を出しました。シユプレヒコールで抗議しましよう。」と呼び掛け、就業命令に応じないよう参加者に訴え、シユプレヒコールの音頭を取り、大会参加者らはこれに応じてシユプレヒコールを繰り返した。

その後、伊藤本省支部執行委員長が、午前九時二九分ころ、閉会のあいさつをし、同人の音頭で「団結がんばろう」のシユプレヒコールを行つて、本件職場大会は終了した。

大会終了後、これに参加した組合員らは、直ちに所属の部署に向かい、平常どおり出勤簿に押印して勤務に就いた。このようにして、本省庁舎敷地内の部署に勤務する者は、大会終了後間もなく勤務に就いたが、特許庁に勤務する者は、本省中庭を出て千代田区三年町の庁舎へ向かうため、それよりやや遅れて勤務に就いた。しかし、いずれの部署からも本件職場大会によつて業務に具体的な支障が生じた旨の報告はされていないし、大会に参加した組合員らが勤務に就く以前に出勤簿が引き揚げられていた部署もなかつた。ただ、大会場として使用された本省中庭は、通常駐車場として使用されているが、本件職場大会開催中は駐車場としての使用はできなかつた。

五  全商工関信支部における本件職場大会の概況

抗弁第3項(二)記載の事実のうち、関信支部が本部指令第一号に基づいて関信支部指令第二号を発出し、同指令に被告ら主張の記載があること、一票投票が実施されたこと、関信支部傘下の一三分会で本件職場大会が実施され、組合員がこれに参加したことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

関信支部では、昭和四四年初めころから、組合員の家庭訪問をするなどしてその生活実態を調査し、これに基づいて賃金引上げの必要があると判断し、同年七月二八日及び二九日に開催した関信支部定期大会において、大幅賃上げ、スト権の回復、沖縄返還、安保廃棄をその後一年間の中心的闘争課題とし、ストライキを含めて闘う方針を決定していた。その後、前記全商工第三三期定期大会において、同様の闘争方針が決定され、本部指令第一号が発せられたため、関信支部では、同年九月三日付けで傘下の各分会委員長に対し、「ストライキを含む秋の闘争について―本部指令第一号“秋期闘争について”の具体化―」と題する関信支部指令第二号を発し、ストライキの準備活動として、同月一三日までに分会、支部などで統一要求書をもつて所属長交渉を行うこと、同年一〇月中旬ころ、秋のストライキ戦術に参加するか否かを問う一票投票を行うこと、本件職場大会の実施時間を、大臣訓令により勤務開始時刻が午前九時一五分とされている東京都区内に存する分会においては午前八時四五分から九時三〇分まで、勤務開始時刻が午前八時三〇分である東京都区外に存する分会においては午前八時一五分から八時五九分までとすること、開催場所は、東京通産局など合同庁舎に存する分会を除き、各分会の所在地ごとに玄関前とすること等を指示した。また、関信支部は、右指令において、要求の正当性及び右ストライキが最高裁判所の判決に照らして合法的なものである旨を主張し、事前に所属長等と大衆的団交を行つて、全商工の要求の正当性を認めさせ、職場大会に干渉しないことなどを確約させることを呼び掛けた。

関信支部傘下の各分会では、関信支部指令第二号に基づいて、同年一〇月中旬から一一月上旬にかけて一票投票を実施するなどして、本件職場大会の実施体制の確立を図つた。その結果、同年一一月一三日には、関信支部傘下の一二の分会が一七か所の職場において勤務時間に七分ないし二九分食い込む職場大会を実施し、一一〇〇名を超える組合員がこれに参加した。

六  桐生繊検分会における本件職場大会の概況

1  桐生繊検分会における本件職場大会への準備活動と当局の対応

抗弁第4項(二)記載の事実のうち、一票投票が実施されたこと、次官文書が配布され、原告川村がこれを所長に返上したことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、<証拠略>中この認定に反する部分はたやすく信用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

桐生繊検分会は、桐生繊検の龍野武彦所長に対し、分会執行委員長である原告川村の名で昭和四四年九月一六日付けの要求書を提出し、その中で、賃金について前記全商工の統一賃金要求中通勤手当の点を除く七項目と同旨の要求及び国公法を改正して公務員にも労働基本権を保障することを要求し、右各要求について通産大臣あてに速やかに上申するよう要求した。これを受けて、龍野所長は、同月二〇日付けで通産大臣に対し、分会員の右要求についての審議を求める旨の上申書を提出した。

その後、桐生繊検分会は、関信支部指令第二号に従つて、同年一〇月一七日、龍野所長に対して本件職場大会の実施を通告し、その際、要求がいわゆる経済要求であり、合法的な集会であるから、当局は干渉しないよう申し入れた。また、桐生繊検分会は、同月二一日に職場集会を開催し、その席上、原告川村は、同分会の高橋書記長を通じて分会員らに一票投票の実施を指示し、約九〇パーセントの分会員が一票投票に参加した。これに対して、龍野所長は、同日、原告川村ら分会三役に対し、勤務時間内に食い込む職場大会は違法であるからやめること、時間外といえども庁舎玄関前広場の使用は許可できないこと、及び万一違法な行為があると処分があり得ることを述べて警告し、同月二三日には、全職員を事務室に集めて、本省から送付された前記二5の「職員の皆さんへ」と題する次官文書を朗読してその趣旨を説明し、これを全職員に配布した。しかし、桐生繊検分会は組織的に次官文書の返上運動を行い、原告川村も分会執行委員長として右運動を行うことの決定に参画し、翌二四日には、原告川村ら分会三役が回収した次官文書をまとめて龍野所長に返却した。更に、龍野所長は、同年一一月一二日、原告川村ら分会三役に対し重ねて前同旨の警告を行い、前同旨の次官文書を庁舎内の二階踊り場にある掲示板に掲示して職員らに周知させた。

なお、桐生繊検の職員の勤務時間は、午前八時三〇分から午後五時までとされていたが、当時より数年前からは、午前九時までに出勤して庶務課の机に置かれた出勤簿に押印すれば遅刻扱いしないという取扱いが定着し、桐生繊検の業務も実際上は午前九時以降に始まる状態であつた。そこで、分会としては、本件職場大会が午前八時三〇分の勤務開始時刻以降に食い込んだとしても、午前八時五九分までに終了して参加者が直ちに勤務に就くならば、業務への支障は全くないと判断していた。

2  桐生繊検分会における本件職場大会の実施状況

桐生繊検分会が、昭和四四年一一月一三日午前八時一〇分ころから八時五七分ころまでの間、桐生繊検本所庁舎玄関前付近において本件職場大会を開催し、組合員約二九名がこれに参加したこと、職場大会では、最初に原告川村があいさつをし、続いて同原告が職場大会開催の趣旨及び経過について演説し、来賓のあいさつなどの行事を行つて終了したことについては、当事者間に争いがない。

右事実のほか、<証拠略>を総合すると、本件職場大会は、桐生繊検分会の組織的行動として整然と行われ、暴力行為は全くなく、組合員らは大会終了後いつものように出勤簿に押印して勤務に就き、業務上の支障は全く生じなかつたこと、本件職場大会開催中、当局からの解散命令や就業命令は発せられなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

七  東京通産局分会における本件職場大会の概況

1  東京通産局分会における本件職場大会への準備活動と当局の対応

抗弁第5項(二)記載の事実のうち、被告ら主張のとおり、東京通産局分会が臨時分会大会を開催して確認を行い、一票投票を実施し、各「組合ニユース」を発行したこと、次官文書が配布され、その返上が行われたことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

東京通産局分会は、昭和四四年一〇月二三日、臨時分会大会を開催し、前記全商工の統一賃金要求を確認するとともに、超過勤務手当の支給につき本省との格差をなくすことなど九項目からなる分会独自の職場要求を決定し、かつ、人事院勧告を完全実施したことのない政府は本件職場大会を違法視することはできないとし、右賃金要求を勝ち取るために、同年一一月一三日午前八時三〇分から九時三〇分まで庁舎九階エレベーター前ホールにおいて本件職場大会を行うことを確認した。また、東京通産局分会は、関信支部指令第二号で指示された一票投票については、本件職場大会への参加決意表明の形式で行うことも決定した。原告青山は、分会執行委員長として、右臨時分会大会に参加し、右各決定及び確認に参画したほか、同年一〇月三一日午後二時ころには、東京通産局総務課において、他の分会役員と共に、分会員らに対して本件職場大会の趣旨を説明し、これへの参加を呼び掛け、その一環として一票投票への参加を呼び掛けた。そして、同年一一月一〇日までに、分会員のうち約八二パーセントを超える者が一票投票に参加した。

これに対して当局は、同年一〇月二二日、佐成総務部長が東京通産局分会の井上事務局長及び淵上事務局次長に対し、「職場大会は勤務開始時刻までに終わらせるよう組合の良識ある行動を期待する。もし違法な職場大会が行われるようであれば、主催者はもとより単純参加者も法に照らして処分せざるを得ない」旨伝達した。また、当局は、翌二三日には、各課において職員に対し、本省から送付されてきた前記二5の「職員の皆さんへ」と題する次官文書を配布し、同月二九日には、前記二5の総理府総務長官談話の写しを各課に配布して職員に回覧させた。しかし、東京通産局分会は、組織的に次官文書の返上運動を行い、原告青山も分会執行委員長として右運動を行うことの決定に参画し、その結果、同月二五日までには総務課を除くすべての課において、各課ごとにその課所属の分会執行委員又は分会委員が、組合員らから次官文書を回収したうえ、所属課長に一括して返却した。

また、東京通産局分会では、分会執行委員会に属する情報宣伝部において「組合ニユース」を発行していたが、これに次のような記事を掲載して、分会員に対し、本件職場大会の正当性を主張し、これへの参加を呼び掛けた。

(一) 同月二九日付け二五六号では、「一一・一三は断固やりぬこう」との見出しの下に、「政府は、包囲された中で誰がみても違憲、不当かつ非常識な攻撃を一〇月二三日いつせいにかけてきました。(中略)今や闘う以外政府の攻撃を受けとめることも、又要求を解決することもできません。今こそ、全員が、我々の要求を解決するために、一一・一三に結集しましよう。」と主張した。

(二) 同月三〇日付け二五七号では、「一一・一三は全国の全ての公務員(国公も地公も)が統一して行動します。」との見出しの下に、「戦術は早朝職場集会、午前八・三〇~九・三〇、九階エレベーター前ホール、規模は全員参加。九年間も人事院勧告を守らず値ぎつてきた政府こそ不当であり、完全実施を要求する我々の行動は正当である。一切の争議行為を禁止すれば違憲の疑いを免れないとの最高裁判決がある。」と主張した。

(三) 同年一一月七日付二五九号では、「一一・一三統一スト『時間内くいこみ職場大会』参加決意署名二八五名(七一%本局組合員比)に達す。」との見出しの下に、「当局の卑劣な、不当な干渉に負けず、お互いが手を結び、組合の指令に従つて行動しましよう。完ぺきな一致団結こそ、要求をかち取る唯一の道であります。まだ、参加決意をしていない人は今すぐ決意をし、決意署名をし、執行部に提出して下さい。」と主張した。

以上のような状況の下で、当局は、同月一二日、前記二5の次官文書を庁舎九階の当局掲示板及び地下一階の合同掲示板に掲示して、その趣旨の徹底を図つた。

なお、東京通産局における職員の勤務開始時刻は、電話交換手、運転手及び守衛などの特殊な勤務の者を除き、大部分の者が午前九時一五分とされ、実際の運用上は、更に午前九時三〇分までは出勤簿整理時間とされ、右時刻までに出勤して各課ごとに備え付けられている出勤簿に押印すれば遅刻扱いしないという取扱いが定着しており、このことはいわゆる窓口業務を行つている課でも異なることはなく、局の業務は実際上午前九時三〇分以降に始まる状態であつた。そこで、東京通産局分会としては、本件職場大会が勤務開始時刻以降に食い込んだとしても、右出勤簿整理時間内に終了して参加者らが直ちに勤務に就くならば、前記電話交換手等の特殊な業務を除き、業務への支障は生じないと判断し、右のような特殊な勤務に就いている十数名を保安要員として本件職場大会に参加させないこととして、業務への支障が生じないよう配慮した。

2  東京通産局分会における本件職場大会の実施状況

抗弁第5項(三)記載の事実のうち、被告ら主張の日時、場所において本件職場大会が開催され、被告ら主張の行事が行われたことについては、当事者間に争いがない。

そして、<証拠略>を総合すると、右争いのない事実のほかに次の事実が認められ、<証拠略>中この認定に反する部分はにわかに信用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

本件職場大会に対して、当局は、これが庁舎管理者の許可を受けないで行われていることから、東京通産局長名の解散命令書を作成し、午前九時ころ、今井総務課長及び玉井会計課長が、これを原告青山に手交するため、本局庁舎九階の局長室から東側廊下を通つて大会場へ赴こうとしたが、廊下の途中で分会の組合員七、八名からなるピケ隊に阻止され、命令の趣旨を説明して通行を求めても阻止を解かないため、やむなく引き返した。更に、勤務開始時刻である午前九時一五分になつても本件職場大会が続行されていたので、京本総務部長が、今井、玉井の各課長と課長補佐二名を伴つて、右解散命令書を原告青山に手交するため大会場に赴こうとしたが、前同様ピケ隊に阻止された。そのころ、小山会計課長補佐は、局長の命により就業命令を記載したプラカードを携えて大会場に赴こうとしたが、やはりピケ隊に阻止されたため、その場でプラカードを高く掲げて大会場の方向に示した。

原告青山は、右のように当局側の管理者が各命令書を携えてきていることを了知すると、いつたん大会議事を中断して自ら音頭を取り、「当局は不当な干渉をやめろ」などと数回にわたつてシユピレヒコールを繰り返して、右各命令を無視するよう参加組合員を鼓舞激励し、本件職場大会を続行した。

本件職場大会終了後、組合員らは直ちに出勤簿に押印して勤務に就いた。本件職場大会によつて具体的な業務の支障は全く生ぜず、本件職場大会は、東京通産局分会の組織的行動として整然と行われ、暴力行為も行われなかつた。

八  地質調査所分会における本件職場大会の概況

1  地質調査所分会における本件職場大会への準備活動と当局の対応

抗弁第6項(二)記載の事実のうち、地質調査所分会が一票投票を実施し、「闘争ニユース」号外を配布したこと、次官文書が配布され、その返上が行われたことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

地質調査所分会は、昭和四四年一〇月八日の秋季分会大会において、「大幅賃上げを中心に闘われる、一一月一三日のストライキを含む統一行動を支持し、全国の仲間とともに力強く闘う」旨を確約した。また、同分会は、関信支部指令第二号に基づいて、同年一〇月下旬から一一月上旬にかけて一票投票を実施したが、これには、分会員の約七六パーセントの者が参加した。原告野沢は、分会委員長として、右指令を受け取り、一票投票の実施決定に参画した。また、地質調査所分会は、同年一〇月二七日付けで「一三ストの準備をかためよう。」、「一票投票を決意をこめて記入しよう。」などと記載した「闘争ニユース」号外を組合員に配布するなどして、その闘争体制の確立を図つたが、右「闘争ニユース」は、地質調査所分会がその責任において発行しているもので、原告野沢も分会委員長として、その発行と配布に参画した。

これに対して当局は、同月二二日、上村総務部長が原告野沢ら分会役員らに対し、勤務時間内に食い込む職場大会は違法であり、万一これが実行された場合には指導者はもちろん単純参加者も法に照らして処分せざるを得ない旨警告した。また、翌二三日には、本省から送付されてきた前記二5の「職員の皆さんへ」と題する次官文書を各部課長を通じて全職員に配布した。しかし、地質調査所分会は、組織的に次官文書の返上運動を行い、原告野沢も分会委員長として右運動を行うことの決定に参画し、同月三一日までに分会員から次官文書を回収したうえ、同日の所長交渉の際、原告野沢がこれを一括して早川所長代理に返却した。

更に、当局は、同年一一月一二日、前同旨の次官文書を所内の掲示板二か所に掲示して、その趣旨の徹底を図つた。

なお、地質調査所の職員の勤務開始時刻は、電話交換手等の特殊な業務に就いている者を除き、午前九時一五分とされていたが、午前九時三〇分までは出勤簿整理時間とされ、右時刻までに出勤して出勤簿に押印すれば遅刻扱いしないという取扱いが定着していた。特に同所の主たる業務を行つている研究職の職員については、その職務の性質上勤務時間が不規則となりがちで、一定時刻に勤務を開始することの必要性も他の職種に比べて少ないため、出勤時間に関する取扱いもさほど厳格ではなく、結局所全体として業務が開始されるのは、実際上午前九時三〇分以降となつていた。そこで、地質調査所分会としては、本件職場大会が勤務開始時刻以降に食い込んだとしても、右出勤簿整理時間内に終了して参加者らが直ちに勤務に就くならば、業務への支障は全く生じないと判断していた。

2  地質調査所分会における本件職場大会の実施状況

抗弁第6項(三)記載の事実のうち、被告ら主張の日時、場所において本件職場大会が行われ、被告ら主張の行事が行われたこと(ただし、原告野沢が情勢報告やシユプレヒコールの音頭を取つたとの点を除く。)については、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、<証拠略>中この認定に反する部分はたやすく信用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

地質調査所分会は、昭和四四年一一月一三日午前八時三〇分ころから九時二四分ころまでの間、東京分室中庭において本件職場大会を開催し、約四〇名の組合員がこれに参加した。本件職場大会は、原告野沢のあいさつで始まり、情勢報告などの後、「がんばろう」のシユプレヒコールが行われ、終了宣言がされて終了した。

この間当局では、上村総務部長が、午前九時一五分ころ、早川所長代理の命により口頭で解散及び就業を命令するために庁舎内から中庭へ赴こうとしたが、守衛室横出入口の内側付近において、当局との折衝係として配置されていた組合員三名に中庭への入場を拒まれたため、やむを得ずその場から中庭に向かつて、「九時一五分になつたから直ちに解散してください。皆さんも就業してください。」と二回大声で命じた。更に、同部長は、午前九時二二分ころ、前同様の目的で中庭に向かつたが、前同様組合員三名に入場を拒まれたため、それらの者に「まだやめないんですか。早くやめてください。」と申し向け、その直後に本件職場大会は終了した。その後、組合員らは、直ちに出勤簿に押印して勤務に就いた。この間、具体的な業務上の支障は全く生ぜず、本件職場大会は、地質調査所分会の組織的行動として整然と行われ、暴力行為も行われなかつた。

九  本件職場大会に関連する懲戒処分等

1  懲戒処分の内容

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

当局は、本件職場大会が国公法で禁じられた同盟罷業に当たるとの見解に基づいて、昭和四四年一二月二六日、本件職場大会の実施に中心的な役割を果たした者や大会の参加者らにつき、原告ら八名を含む三七名に対して戒告の懲戒処分を行つたほか、八五名に対して訓告、六三〇〇名に対して厳重注意を行つた。このうち、戒告処分を受けた者の全商工における地位をみると、本部役員は原告川島のみで、同人と本省支部の伊藤執行委員長、原告木地及び同泉部を除くと、そのほとんどが分会(執行)委員長であつた。以上の処分は、本省が各任命権者の意見を取りまとめて作成した処分基準に沿つて行われた。右処分基準は、主として各職場大会において中心的な役割を果たした者に対して処分を行うというもので、本件職場大会は前記のようにほとんど分会単位で行われたことから、当局においては、主として各職場大会において中心的な役割を果たしたと目される分会(執行)委員長を処分の対象とした。

なお、全商工は、昭和四六年の春闘時にも本件と類似の職場大会を開催したが、その際の全商工組合員らに対する懲戒処分等は、減給一名、戒告七名、訓告五七名、厳重注意四六〇〇名というもので、減給処分が行われた点で本件に関する処分より重くなつているものの、戒告処分を受けた者が少なく、これには分会(執行)委員長が含まれていない点で本件に関する処分と異なつている。

ところで、当局は、勤務時間内に食い込んで行われた本件職場大会に参加した者については、その食い込んだ時間だけ職務を放棄したものと評価したが、これを理由として給与の減額の措置はとつておらず、前記のように省内の各部局において広く行われている正規の勤務開始時刻後ある一定時間内に出勤すれば遅刻扱いしないとの取扱いについても、本件職場大会の前後を通じてこれを改める措置はとらなかつた。

2  本件各処分後における関信支部及びその傘下の分会と当局との交渉

(一) 関信支部

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

本件各処分後、関信支部傘下の各分会は、各所属長と交渉して処分理由等の説明を求めた。その結果、関信支部は、工業技術院の下部機関における説明に混乱があると判断し、昭和四五年二月一三日、この点について被告工業技術院長と交渉した。右交渉で、同院長は、本件職場大会の目的に理解を示し、本件各処分の発令前には下部機関の長の中に処分をすべきでないとする者がいたことを認めたが、正規の勤務時間内に多数の職員が組織的、計画的に行動し、仕事をしなかつたことは、職務専念義務に違反し、同時にその結果として国民の福祉に何らかの害をもたらすと考えざるを得ないと述べた。

(二) 桐生繊検分会

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、<証拠略>のうちこの認定に反する部分はたやすく信用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

桐生繊検分会は、昭和四五年一月五日龍野所長と交渉したが、その際、同所長は、原告川村に対する本件処分の撤回に努力する旨約した。その後、同所長は、同月二八日付けで、被告事務次官と通産省繊維雑貨局繊維検査管理官にあてて上申書を提出し、その中で、本件職場大会は賃金問題を中心として行われたもので、関連する業界への支障がないよう配慮して行われ、実質的に業務への影響もなく、人事院勧告が完全実施されていない現状ではやむを得ない行動であると述べ、処分撤回の措置をとるよう求めた。

(三) 地質調査所分会

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

地質調査所分会は、昭和四五年一月一三日、早川所長代理と交渉した。その際、同所長代理は、本件職場大会の開催は処分に相当しないと考えたが、処分前に工業技術院の院議で本省の作成した統一基準に従うよう指示され、同院の総務部長から、処分に反対なら所長は辞職願いを出す自由はあるが、辞職しても処分が出されないということはないなどと言われ、やむを得ず処分を出したと説明した。更に、同分会は、同年二月四日、佐藤所長と交渉し、その際、同所長との間で、双方ともに本件処分の取消しに全力を挙げる旨確認し、当面処分による不利益を実質的に補償することを確認するなどの内容を含む確認書を取り交わした。

第三本件各処分の効力について

一  処分事由該当性

1  本件職場大会の性質

前記認定の事実関係によると、本件職場大会は、いずれも全商工本部の指令に基づき、全商工の組合員らが、当局の許可を受けないで、勤務時間内に食い込む時間帯に実施したものであるから、その間参加組合員らは職務を放棄したものといわなければならない。したがつて、全商工組合員らの右行為が国公法九八条二項にいう同盟罷業に当たることは明らかである。

なお、原告らは、本件職場大会はいずれも出勤簿整理時間又は出勤猶予時間内に終了しており、通産省ではこれらの時間帯には勤務は始まらず、就業命令も出ない旨の慣行が労使双方の規範意識に基づいて定着していたから、右行為は同盟罷業に当たらない旨主張する。

しかし、いわゆる一般職の国家公務員の勤務時間は、給与法一四条により、原則として人事院規則で定めるとされ、例外的に、各庁の長が人事院の承認を経て勤務時間の変更等をし得るとされているところ、原告らの主張する出勤簿整理時間又は出勤猶予時間に相当する時間帯に職員が勤務を要しないとする旨の人事院規則の定めは存在しないし、通産省の職員について右時間帯に勤務を要しないとすることを通産大臣が定めた事実を認めるべき証拠はない。したがつて、出勤簿整理時間又は出勤猶予時間が設定されていたとしても、それは、職員の勤務開始時刻自体を変更するものではなく、単に、職員が右時間内に出勤して出勤簿に押印すれば、その者を勤務開始時刻までに出勤したものとして取り扱い、遅刻扱いしないという消極的な効果を付与するにすぎないものと解すべきである。また、仮に右時間帯に勤務を要しない旨の慣行が存在したとしても、それは右各法令の規定に明らかに反するものであるから、法的な効力を有しない。そうすると、出勤簿整理時間又は出勤猶予時間内に出勤した職員は、直ちにその職務に従事する義務があり、右時間帯に職場大会を開催して職務を放棄することは、国公法九八条二項にいう同盟罷業に当たるといわざるを得ない。

2  各原告らの行為の処分理由該当性

前記認定の事実関係及び本件職場大会が国公法九八条二項にいう同盟罷業に当たることを前提とすると、被告らが原告らの処分理由として主張する抗弁第8項(一)ないし(九)の各事実がすべて認められるから(このうち(一)の事実については、当事者間に争いがない。)、原告らの右各行為が同所で指摘されている国公法九八条二項又は一〇一条一項の規定に違反し、同法八二条一号又は二号に該当することは明らかである。

なお、原告らは、国公法九八条二項後段所定の「あおり」及び「そそのかし」の行為主体は職員以外の第三者に限られ、また、仮にその行為主体に職員が含まれるとしても、右「あおり」等には原告らの行つたような組合の指令の通常の伝達等は含まれない旨主張する。

しかし、同項の文言から考えて、「あおり」及び「そそのかし」の行為主体を右のように限定して解釈することは相当でない。

また、一般に、労働組合の争議行為は、機関の指令によつて実施されるのであり、全商工のように全国的な組織をもつ労働組合では、中央の機関で発出された指令が、その組織系統に従つて順次上部機関から下部機関へと伝達され、最後に各組合員に伝達されることになる。そして、各組合員は機関の指令に従うべき義務を負うから、指令が伝達された以上、組合員らが組合の統制から離脱しない限り、争議行為が実行されることとなる。このように、右指令の伝達行為は、争議行為の実行に現実に影響を及ぼし、争議行為の原動力となり、争議行為の実行を誘発する現実的な危険を有する行為であるから、優に前記「あおり」及び「そそのかし」に該当するものと評価することができる。

したがつて、原告らの右各主張はいずれも採用することができない。

二  原告らの主張に対する判断

1  憲法違反の主張について

まず、原告らは国公法九八条二項が憲法二八条に違反する旨主張する。しかし、国公法九八条二項が憲法二八条に違反しないことは、既にいわゆる全農林警職法事件についての最高裁判所大法廷判決(昭和四八年四月二五日判決・刑集二七巻四号五四七頁)が判示するところであり、当裁判所もまた右判断を相当と思料するものであるから、原告らの右主張は採用することができない。

次に、原告らは、本件各処分が国際人権規約及びILO八七号条約を侵犯し、憲法九八条二項に違反する旨主張する。しかし、国際人権規約八条二項は、公務員の同盟罷業を行う権利等について合法的な制限を設けることを是認しており、国公法九八条二項は右にいう合法的な制限を設けた規定と解すべきであるし、ILO八七号条約は労働者の争議権に関するものではないから、国公法九八条二項が同条約に反するとすることもできない。したがつて、国公法九八条二項に違反することを理由とした本件各処分は、右各条約を侵犯するものではなく、原告らの右主張は、その前提を欠き、採用することができない。

2  人事院勧告の完全実施を要求する争議行為と国公法九八条二項

原告らは、仮に国公法九八条二項が合憲であるとしても、それは、国家公務員に対する労働基本権の制限及び禁止に対する代償措置が制度的にも機能的にも十全な状態にある場合に限られ、代償措置である人事院勧告制度が実際上画餠に等しい状態にあるときは、右制度の正常な運営を要求して相当と認められる範囲内の手段、方法で争議行為を行うことは、公務員に憲法上保障された行為であつて、これに対して国公法九八条二項を適用することは許されない旨主張する。

前記の最高裁判所大法廷判決が述べるように人事院勧告制度は、公務員の労働基本権を制限することの代償措置として最も重要なものの一つである。したがつて、人事院勧告が将来への明確な展望を欠いたまま実施されないなど、右制度が代償措置として迅速公平に本来の機能を果たさず、実際上画餠に等しい状態にある場合には、公務員がその機能の回復を目的として争議行為を行うことは、憲法上許された行為であると評価することができる(右大法廷判決における裁判官岸盛一、同天野武一の追加補足意見参照)。

ところで、本件職場大会が行われた昭和四四年には人事院勧告が完全には実施されていなかつたことは、前記第二の二3で認定のとおりである。しかしながら、同二2及び3で認定したように、人事院勧告は逐年完全実施に近付きつつあり、本件職場大会の行われた時には、勧告の内容は実施時期の点を除いて完全に実施すること及び実施時期の点も前年度よりは一か月早く実施することが閣議で決定されており、勧告と閣議決定との差は、実施時期が一か月遅くなることと六月に支給した期末手当及び勤勉手当には改定規定を適用しないこととの二点であつて、完全実施に更に一歩近付いていた上、政府は翌四五年からは勧告を実施時期の点をも含めて完全に実施する旨明言していたのである。このように、本件職場大会の当時、人事院勧告は、完全には実施されていなかつたものの、完全実施に近付きつつあり、完全実施への明確な展望も開けていたのであるから、人事院勧告制度が労働基本権制限の代償措置として本来の機能を果たさず、実際上画餠に等しい状態にあつたとすることはできない。

したがつて、本件職場大会の目的が人事院勧告の完全実施にあつたとしても、そのことによつて本件職場大会を適法な争議行為と評価することはできず、原告らの主張は採用することができない。

3  争議行為と懲戒処分について

原告らは、争議行為は一個の集団的行為としてのみ評価の対象となり、集団構成員個人や機関個人の行為としての法的評価は生じる余地はないから、争議行為を行い、又はこれを指導したことを理由に懲戒処分をすることは許されないし、争議行為を指導したことを理由に組合幹部を懲戒処分に付することは、国公法一〇八条の七にいう組合活動を理由とした不利益取扱いとなり、不当労働行為として許されない旨主張する。

しかし、一般に、争議行為が行われている場合にも、個々の労働者と使用者との間の個別的労働関係は依然として存続しているのであるから、当該争議行為自体が違法なものであるときには、使用者は、争議行為を構成する個々の労働者の行為を個人的行為の側面からとらえ、当該労働者に対して個別的労働関係上の責任である懲戒責任を追及することができるものと解すべきである。

また、国公法一〇八条の七の規定や一般の不当労働行為についての規定は、職員団体や労働組合の正当な行為をしたことを理由とした不利益取扱いを禁止するものであつて、違法な争議行為を理由として懲戒処分を行うことまでも禁止したものでないことは明らかである。

したがつて、原告らの右各主張は、いずれもその前提を欠き、採用することができない。

次に、原告らは、争議行為に対して懲戒処分を行うことが許されるのは、当該争議行為が、その目的、手段、態様に照らして違法性の強いものであり、当該公務員が具体的に重大な業務阻害行為を行つたような場合に限られるべきである旨主張する。

しかし、国公法八二条及び九八条には、懲戒処分をし得る場合を右のように限定する旨の規定はなく、右各法条を右のように限定的に解釈するのは妥当ではないと解すべきであり、また、このように解しても憲法に違反することはないと考えられるから(前掲最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決参照)、原告らの右主張は採用することができない。

4  不当労働行為の主張について

原告らは、まず、職場大会で指導的役割を果たすことは、職場団結のかなめとしての行為であるから、その行為を理由に懲戒処分を行うことは、労働組合の団結の土台を崩すもので、不当労働行為である旨主張する。

しかし、前記のとおり、不当労働行為制度は、正当な労働組合活動のみを保護するものであり、本件のような違法な争議行為はその保護の対象外にあるといわざるを得ないから、原告らの右主張は採用することができない。

次に、原告らは、当局は、本件職場大会当日に限つて、通常の勤務形態を変更して就業命令を発しており、これは、労働組合の集会に限つて通常と異なる取扱いをするもので、労働組合の団結を破壊することを目的とした不当労働行為である旨主張する。

しかし、本件職場大会の行われた時間帯は、前記のとおり、正規の勤務時間内に属するから、その時間帯に就業命令を発することは当局の正当な権限行使であると評価することができる。そして、就業命令を発するか否かは、本来当局の裁量に属する事項であるから、本件職場大会当日に限つて右時間帯に就業命令が発せられたことは、本件各処分が懲戒権を濫用したものか否かを判断する際の考慮事由の一つとはなつても、不当労働行為を構成するものとは評価することができない。したがつて、原告らの右主張も採用することができない。

三  懲戒権濫用の主張について

1  原告らは、本件各処分は懲戒権の濫用であると主張している。

国家公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができ、その決定は懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。そして、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するに当たつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

そこで、右の見地に立つて、本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかについて検討する。

2(一)  原告らは、本件職場大会開催以前にも同種の職場大会が行われたが処分を受けた者はいなかつたし、また、その後の職場大会における被処分者の数は本件よりはるかに少なく、本件各処分は異常な大量処分であると主張する。

なるほど、全商工は本件職場大会以前にも、昭和三三年から三六年までの間に何回か勤務時間内に食い込む職場大会を開催したことがあるが、それに対して処分がされたことはないこと、全商工は本件職場大会以後も同様の大会を何回か開催したことがあるが、それに対する被処分者の数は本件職場大会の時のそれよりも少なかつたことは、さきに認定したとおりである。

しかし、右のような事実が存在するとしても、前記のように懲戒権者が懲戒処分をするかどうか、いかなる懲戒処分を選択すべきかは、その行為の原因、動機、性質、態様、結果等のほか、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情を総合して決定されるべきものであつて、その決定は懲戒権者の裁量にゆだねられているものであるから、たとい同種又は類似の行為に対する処分であつても、処分をするかどうか及びいかなる処分をするかについては、右のような多くの事情を総合的に考慮して行われるところ、各年度の勤務時間内に食い込む職場大会について、右のような諸般の事情が本件職場大会のそれと同一であつたものとは考えられないし、社会情勢も年によつて異なるのが当然であるから、原告ら主張のような事実があるからといつて、本件についての懲戒権の行使が権利の濫用であるとすることはできない。

(二)  また、原告らは、本部の副委員長や書記長が処分を受けていないのに、分会委員長の多くが処分を受けていたり、同一の集会で同一の行為を行つたにもかかわらず、処分内容が戒告と訓告に分かれているなど、本件各処分は被処分者間の処分の程度、内容に著しく公平を欠き、恣意的な処分であると主張する。

しかし、仮に右主張のような事実が認められるとしても、被処分者ら以外の者に対する処分が行われなかつたこと自体の当否を問題にする余地があるのは格別、そのことによつて、被処分者らに対する懲戒処分が直ちに不当なものとなる理由はない。

(三)  原告らは、また、同一日に同種の職場大会を開催した農林省の労働組合関係の処分と比較すると、農林省当局が適用した基準に従えば、本件職場大会については処分の対象とされるほどのものではないと主張する。

しかし、農林省の労働組合が開催したという職場大会の態様、規模、結果、影響等の詳細は証拠上明らかでないし、前記<証拠略>によれば、本件と同一日に行われた農林省の労働組合の職場大会については、全商工の場合よりも重い処分を受けた者が多数いることが認められるのみならず、懲戒権者はさきに述べたような裁量権を有しているのであるから、同種の職場大会参加者に対する処分の基準を定めるについても、その省庁の実情に応じた基準を設定することができるのであつて、その基準が他の省庁のそれと異なつているとしても、そのことの故に懲戒権の行使が権利の濫用であるとすることはできない。

(四)  更に、原告らは、本件各処分は、現場の当局者が納得していないにもかかわらず、大臣官房の決定した統一基準によつて行われたものであると主張している。

しかし、この点については、前記第二の九2(一)ないし(三)で認定したように、下部機関の長の中には本件各処分の発令前には処分をすべきでないとする者がいたことを被告工業技術院長が関信支部との交渉の中で認めたこと、桐生繊検所長及び地質調査所長代理が処分の撤回に努力する旨約したことを認定することができるけれども、処分について全省的に統一した基準を作成し、これに従つて処分を行うことは、処分の均衡、公平の点からみて、その基準が不当なものでない限り、むしろ必要であるということができるから、前記桐生繊検所長等の言動があるからといつて、そのことによつて、直ちに本件各処分の効力が左右されるものとすることはできない。

(五)  原告らは、また、本件各処分が国際的基準に反すると主張するが、本件各処分と国際人権規約やILO八七号条約との関係については、前記二1において述べたとおりであり、原告らの主張は採用することができない。

3  次に、懲戒権者のした懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものということができるか否かに関し考慮すべき諸般の事情について、先に認定した本件の事実関係を前提として考えてみる。

(一) 本件職場大会実施の目的・動機について

本件職場大会は、過去人事院勧告が完全には実施されない状態が続き、昭和四四年度においても実施時期の点で完全には実施されないことが閣議で決定されたという状況の下で、人事院勧告の完全実施を主たる目的として行われたものである。そして、国家公務員に対する労働基本権制限の代償措置としての人事院制度、なかでも人事院勧告制度の重要性からすれば、原告らが人事院勧告の完全実施を要求することは当然のことであるし、そのことを目的として本件職場大会を実施し、これに参加したことには無理からぬ面があることは否定できない。しかし、現行の人事院等の制度は、労働基本権制限の代償措置としての一般的要件を備えたものとして整備され、かつ、本件職場大会の行われた昭和四四年には人事院勧告は完全実施に近付きつつあり、代償措置としての本来の機能を果たしていたのであるから、本件職場大会の目的を原告らに過大に有利に評価することは相当でない。

(二) 本件争議行為の適法性に関する全商工の考え方について

公務員の争議行為等については、これを禁止する旨の各種の規定が設けられており、また、これら争議行為のあおり行為等については、一部に刑事処罰規定が設けられている。これらの規定と憲法二八条との関係については、本件争議行為の約七か月前の昭和四四年四月二日に、最高裁判所大法廷は、前掲都教組事件及び全司法仙台事件についてそれぞれ判決を言い渡した。右の二つの判決は、公務員の争議行為禁止規定及びそのあおり行為等の処罰規定について、憲法二八条の趣旨と調和し得るよう合理的に解釈すべきであるとのいわゆる合理的限定解釈論を採用し、争議行為にも違法性の強いものと弱いものとがあり、また、そのあおり行為等にも違法性の強いものと弱いものとがあるとした上、禁止されている争議行為は違法性の強いものであり、処罰されるあおり行為等は違法性の強い争議行為に対する違法性の強いあおり行為等に限定されるとした。また、全司法仙台事件判決は、争議行為の違法性の強い場合の例示として、職員団体の本来の目的を逸脱してされる場合、暴力その他これに類する不当な圧迫を伴う場合、社会通念に反して不当に長期に及ぶなど国民生活に重大な支障を及ぼす場合、という三つを挙げていた。

右の二つの判決は、いずれも刑事事件に関するものであつて、争議行為のあおり行為等の処罰規定の解釈について述べたものであり、懲戒処分について直接触れたものではないけれども、全商工としては、右判決の示した基本的な考え方は懲戒処分の場合についても妥当すると判断し、争議行為の目的が正当であり、政治的目的のために行われたものではなく、暴力行為を伴わず、かつ、国民生活に重大な障害を来さない場合には当該争議行為は適法であると考え、右の適法性を失わない範囲内で本件職場大会を実施しようと計画した。そして、本件争議行為が、全司法仙台事件判決が争議行為の違法性の強い場合の例示として掲げた三つの場合に該当するものと認め難いことは、本件職場大会の実施状況からみて明らかである。

ところで、右の都教組事件判決及び全司法仙台事件判決は、その後の最高裁判所の大法廷判決(前掲全農林警職法事件についての昭和四八年四月二五日判決及びいわゆる岩手県教組事件についての昭和五一年五月二一日判決・刑集三〇巻五号一一七八頁)により変更され、公務員の争議行為禁止規定及び争議行為のあおり行為等の処罰規定は限定解釈をしなくても憲法二八条に違反しないとされて今日に至つている。

このように、全商工が本件争議行為の正当性の根拠とした都教組事件判決及び全司法仙台事件判決はその後の最高裁判所大法廷判決により変更されており、現在では判例として機能していないのであるけれども、本件職場大会の当時においては、最高裁判所大法廷判決としての権威と通用性を有していたのである。そして、右各判決がいずれも刑事事件に関するものであることや、その内容も争議行為禁止規定やそのあおり行為等の処罰規定につき合理的限定解釈をすべきであるというにとどまり、違法とされる争議行為の例示をしているものの、いかなる範囲の争議行為やそのあおり行為等が正当なものとされるかについては必ずしも明確に示されてはいないものであつたことを考慮にいれても、全商工が右各判決の判断を前提として、それに従えば正当であると思料した範囲内で本件職場大会を行うことを計画した事実は、原告らに対する懲戒権の行使の適否を判断するについて考慮しなければならない一つの事情である。

(三) 本件争議行為の規模、態様について

本件争議行為は、国公共闘の勤務時間内食い込み職場大会実施の決定を受けて、全商工が企画し、全商工本部から支部に、支部から分会に指令が発出され、それに従つて行われたものである。全商工全体としては、本省支部が支部の統一集会を開催したほか二八の分会が三三か所において職場大会を開催し、合計三〇〇〇名を超える組合員が参加した。これらの職場大会は正規の勤務時間に約五分ないし約二九分食い込むものではあつたが、いずれも出動猶予時間又は出勤簿整理時間内に終了した。また、これらの職場大会はいずれも整然と行われ、暴力行為を伴つたものではなかつた。

このように本件争議行為が全商工の組織的行為としてその指令に基づき行われたことに照らせば、争議行為の原動力としてはその企画及び指令が重要性を帯び企画及び指令に参画した組織の上位にある者の責任が最も強く追及されるべきものということができ、組織の下位の者の責任はこれに比較して軽微であるということになろう。また、本件職場大会がいずれも出勤猶予時間又は出勤簿整理時間内に終了し、暴力行為を伴つたものではなかつたことも、懲戒権行使につき考慮すべきである。

(四) 本件職場大会の影響について

本件職場大会は、いずれも出勤猶予時間又は出勤簿整理時間内に終了し、具体的な業務上の支障が生じたとの報告はなかつた。このように本件職場大会により通産行政に対し現実的な障害が生じることがなかつたことは、原告らに有利な事情と考えられる。

しかし、本件職場大会は違法な争議行為であるから、そのこと自体から既に、通産省本省その他関係部署の業務の正常な運営に影響を与えるおそれがあり、国民の利益を損なうおそれがあつたといわなければならない。

(五) 当局の警告

本件職場大会については、当局から違法であり、これが実施されれば処分をせざるを得ない旨の警告が事前に何回も発せられ、当日においても、桐生繊検を除いては管理者から解散命令や就業命令が発せられた。本件職場大会は、それにもかかわらず、あえて強行されたものである。このことも懲戒権行使に際して考慮すべき要素の一つである。

(六) 本件懲戒処分による不利益について

原告らに対して行われた懲戒処分は、いずれも戒告であるが、前記第一の二において述べたように、戒告処分を受けた職員はその後の直近の昇給予定時期において当然に昇給を受けることができないこととなり、また、処分後一年間は特別昇給の対象から除外されることとなるので、これに伴う経済的不利益は、何らかの回復措置がとられない限り職員が退職するまで継続累積することとなる。しかし、このような不利益があるとしても、戒告は国公法の定める懲戒処分の中では最も軽い処分であつて、職員が国公法八二条各号の一に該当する場合において、その責任を確認し、及びその将来を戒めることを内容とするものであり、職員に与える不利益の程度は、他の懲戒処分に比し軽微である。

以上のような本件争議行為に関する諸般の事情を総合して考えると、本件職場大会実施の目的、動機には理解できる点があること、全商工としては当時の最高裁判所大法廷の判決の考え方に考慮を払つていたこと、本件争議行為はいずれも出勤猶予時間又は出勤簿整理時間内に終了し、いずれも整然と行われ、暴力行為を伴つたものはなかつたこと、また、本件争議行為により通産行政に現実的な障害がなかつたことは、原告らに有利な情状であるということができる。しかし、本件職場大会は違法な争議行為であつて、通産省の業務の正常な運営に影響を与えるおそれがあつたのであるから、現実の障害がなかつたからといつて、違法な争議行為の責任を軽視することはできない。また、本件職場大会は、多数の組合員の参加の下に、当局の警告等を無視して敢行されたものである。そして、原告らは、本件職場大会に単に参加したにすぎないものではなく、全商工の本部、支部又は分会の役員として、本件職場大会の企画、立案や組合員への参加のしようよう等を行い、本件職場大会当日は自ら大会を主催したり、あいさつや演説をするなど、本件職場大会実施に積極的に関与し、指導的な役割を果たしたものであるから、その責任を追及されてもやむを得ないものと考えられる。桐生繊検や地質調査所においては、その業務の内容からみて、国民の生活に対する影響のおそれは本省や東京通産局におけるそれよりも小さいということができるであろうけれども、それが皆無というわけでもないから、原告川村及び同野沢についても、それぞれの分会における職場大会に分会の長として積極的な役割を果たした点で、その度合いはともかく、責任を等閑に付することはできないであろう。

そうすると、原告らに対する有利な点を十分に斟酌しても、戒告処分が国公法の定める懲戒処分の中で最も軽い処分であることを考えると、懲戒権者である被告らが、本件争議行為について原告らを戒告処分としたことが、社会観念上著しく妥当を欠いてその裁量権を濫用したものとまでは評価することはできないといわなければならない。

四  よつて、本件各処分は適法というべきである。したがつて、本件各処分の違法を主張し、その取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がなく、また、原告川島に対する懲戒処分の違法を前提とする同原告の損害賠償請求も理由がない。

第四本件各判定の取消請求について

本件各判定については、その原処分である本件各処分が違法であることを理由として、その取消しを求めることはできないと解すべきである(行政事件訴訟法一〇条二項)。しかし、原告らは、本件各処分の違法を主張するのみで、本件各判定についてのその他の取消理由を全く主張、立証しない。したがつて、原告らの本件各判定の取消しを求める請求は、理由がない。

第五結論

よつて、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 今井功 片山良廣 藤山雅行)

処分一覧表<略>

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